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THINK PIECE

TOTEM song for home

写真家・若木信吾によるドキュメンタリー映画『TOTEM』

09 10/19 UP

Photo: Yuji Hamada Translation: Yuka Aoki Text: Misho Matsue

写真家として、そして自身と祖父を主人公にした心温まる“私小説”的映画、『星影のワルツ』の監督としても知られる若木信吾。10月24日、若木の手による2作目となる映画、『トーテム song for home』が公開される。


この映画に登場するバンドTOTEMは、メンバーのほとんどが台湾の少数民族の出身で、ロックやヒップホップといったポップミュージックと少数民族伝統の音楽を融合し、首都・台北で活動している。


TOTEMの音楽には故郷への思いを綴った歌詞や、懐かしいメロディが詰まっているが、聴く者を強く惹きつける理由は、彼らが単に伝統を意固地に継承していくだけの存在ではなく、あくまで現代的な感覚を持ち合わせた上で「素直な」表現活動をしているからであろう。そんな若者たちの横顔を3年に渡って追った若木信吾、そして主演のスミンに話を聞いた。

(右)若木信吾(わかぎ・しんご)

写真家/映画監督。1971年静岡県浜松市生まれ。ニューヨーク州ロチェスター工科大学写真課卒業後、雑誌・広告・音楽媒体など、幅広い分野で活躍中。また2004年6月から雑誌「youngtreepress」の編集発行を自ら手 がけるほか、第一回監督映画『星影のワルツ』が、2008年ロッテルダム国際映画祭タイガー賞にノミネート、シカゴ国際映画祭新人賞にノミネートされた。

http://www.youngtreepress.net/

(左)スミン

1978年生まれ、台湾の少数民族であるアミ族の出身。同居していた祖父母がキリスト教を信仰していたことから、幼い頃より教会でピアノを弾き、賛美歌に親しむ。2002年、兵役中に出会ったメンバーとともに、TOTEMを結成。TOTEMではボーカル・ギター、作詞・作曲を担当。

 

──
若木さんと、この映画の主役と言えるTOTEMのメンバーであるスミンとの出会いは、数年前に雑誌での台湾取材が縁なのだそうですね。彼らを題材に映画を作ろうと思ったのはなぜですか?
若木信吾(以下:W)
「スミンとは、台湾の少数民族であるアミ族の暮らしや伝統を取材する企画での運転手兼、案内役として出会いました。第一印象で感じたスミンの強さ、それから音楽的な才能ももちろん魅力的だったけれど、今日も通訳をしてもらっている青木由香さん(註1)が以前から彼と親しくしていて、バックグラウンドをいろいろ聞かせてもらい興味を持ったのが大きいかな。出会ってすぐに彼のおばあさんの家に泊まりに行ったり、演奏を聞かせてもらったり、青木さんは一気にスミンと深く向き合える状況を作ってくれて。それが2006年のことで、その後はプロデューサーを現地に連れて行ったり、別の取材で訪れたのも含め、台湾には何度も足を運びました」
──
この映画では台湾特有の文化がクローズアップされていますが、以前からアジア圏の文化にはご興味があったのでしょうか?
W :
「僕はアメリカン・カルチャー寄りだったこともあって、全然詳しくは知らなかったですね。もちろん仕事で色々なアジアの国を訪れてはいますが、誰かと深く知り合うということもなかったし。そういう意味では、文化そのものを追うというよりも、彼の人間性に惹きつけられたんですよね」

──
若木さんの目からご覧になって、アミ族としてのルーツ、バックグラウンドを大事に音楽活動をしているスミンは、「少数民族の若者代表」なのでしょうか? それとも彼の存在は特別に映ったのでしょうか?
W :
「彼はかなり特別だと思います。もちろん祭りは楽しいもので、伝統的な行事は大切にされてはいるものの、アミ族の村の誰もが歌や踊りに興味があるわけではないと感じたし。スミンは一度村から台北に出たことで、自分のルーツの重要性を改めて理解したんじゃないかな。僕は以前、祖父をモチーフにした映画を撮っているけれど、地方出身の人がみんな家族の映画を撮るわけではないし(笑)。それは僕が地元を離れてNYに出たことで、祖父の人の良さや平凡さが大事だと気づいたのがきっかけであって、この部分でスミンと僕は似ているのかもしれない」
──
今、お話に出たように、監督デビューとなる前作『星影のワルツ』では、パーソナルな日常をフィクションで描いていらっしゃいます。もちろんテーマとしては前作と通じるものも感じますが、今回はドキュメンタリーという手法をとられています。制作時に特に気を付けたポイントなどはありますか?
W :
「前作は舞台が自分のよく知る地元だったので、説明すべきところ、省くべきところをどうするのかが難しかったけれど、今回の場合は知らない土地だったし、ただ付いていくしかなかったので、その点では楽でした。でも、予測のできない面白いことが立て続けに起こる分、そこから何をすくっていくかを見極めるまでがすごく大変でしたね」
──
実際の撮影はどのように進んだのですか?
W :
「TOTEMのメンバーは一人を除いて、台湾の中でも原住民の多い台東エリアの別の部族出身で、彼らの村の祭りを順に訪ねていって撮影しました。その間にスミンの家やおばあさんの家、バンドのライブも撮影して。 撮りがいのある魅力的な人たち、美しい風景はたくさんあるけれど、じゃあどうして自分は撮影するのかを自問しながら、撮り終わって編集をしては追撮、というのを繰り返しました」



註1:2005年、留学中に台湾で出版した『奇怪ねー・一個日本女生眼中的台湾』がベストセラーに。
以後、日本のメディアにて執筆、写真で台湾を紹介する傍ら、2009年より台湾のテレビ「台湾一人観光局」でもナビゲーターを務める。
今作では、通訳兼コーディネートを担当。


 

──
となると、撮影のスケジュールも含め、不確定要素も多々あったのではないでしょうか。
W :
「予め決めていたのは、スミンの普段の生活に即して撮影していく、ということだけですね。きれいな画は撮りたかったので、彼がよく知る海や山にも連れて行ってもらえるようリクエストはしましたが。夏休みの帰省に付いていった友達、みたいな感じかな。故郷にいる間はスミンも仕事に追われているわけではないので、時間はたっぷりある中でふと彼が口にする言葉を拾っていきました」
──
ではスミンにお尋ねしますが、そもそも自分たちを題材に映画が作られると聞いた時、どう思いましたか?
スミン(以下:S)
「(日本語で)『カッコイイ!』。でもどうして僕のことを撮るんだろう、と思いました」
──
若木さんから映画のコンセプトについての説明は……?
S :
「何もなかったですね(笑)」
W :
「確かに(笑)。だから本人は今でも不思議に思っているんじゃないかな」

──
本当ですか?!
W :
「言葉の壁もあったからか、映画のテーマについて直接スミンとはあまり話さなかったんですよ。青木さんを通してコミュニケーションをとると、僕より彼のことをずっとよく知る分、青木さんが先に答えちゃったりもして(笑)。なので、僕が青木さん経由でどれだけ彼について知っているかを、スミンは知らないと思う(笑)。でもその分、言葉を介して少しずつ、というプロセスを飛ばして、お互い動物的に距離を縮められたのは、この映画のポイントかもしれない。僕は“四の五の言わずに見ていればわかる”というのを実践して、逆にスミンも僕のことを観察しながら動いてくれて。ポジティヴに考えると(笑)」
──
動物的なコミュニケ―ションのもと、スミンとしては、自分が音楽を通して表現したいことやアイデンティティはきちんと汲み取られていると感じましたか?
S :
「自分たちの文化、バンドの音楽活動、そして“家”というものがうまく表現されていると感じました。僕のおばあちゃんが出てくるシーンを見ていると、とても心がなごんで温かい気持ちになるし。本当はあの辺りはうだるように暑いから、みんなイライラしていて、ちっともそんな雰囲気じゃないんだけど(笑)」
W :
「(笑)。でもカメラってそういうところがあるよね。第三者が入ることで思いがけないきっかけを与えることになるというか、普段はお互いに言わないこともふと口に出てしまったり。いくらドキュメンタリーとはいえ、ありのままの日常がただ映るわけではないから、そこは面白いと思いますね」