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THINK PIECE

TOTEM song for home

写真家・若木信吾によるドキュメンタリー映画『TOTEM』

09 10/19 UP

Photo: Yuji Hamada Translation: Yuka Aoki Text: Misho Matsue

──
ところで、スミンの村の規模はどのくらいなのですか?
S :
「村全体では2000人くらいはいると思う。でも祭りの時以外はお年寄りばかり。昔は自給自足で暮らしていたけれど、父の代くらいから若者は遠洋や都会に出稼ぎに出るようになったんです。今は、まず勉強のために都会に出る若者が多いですね。僕も大学進学のために台北に出てからは、ずっと台北で暮らしています」
──
そして現在はミュージシャンとして活動していますが、そのきっかけは?
S :
「最初は色々な仕事をしながら音楽をやっていたんです。僕は歌ったり演奏したりするよりも曲を書くタイプで、自分の作った曲をコンクールに応募するにあたって、歌ってくれる人がいなかったので仕方なく自分で歌い始めました。それでいくつも賞を頂いたけれど、TOTEMを結成したら運気が下がったのか、全然獲れなくなりました(笑)。バンドとして賞をもらえ、本格的に活動するようになったのは、結成後3年くらい経ってからかな」
──
歌について少し意外に思うのは、ルーツであるアミ族の音楽は楽器ではなく声が主体ですよね。バンドで表現したい音楽と伝統音楽とは、別のものなのでしょうか?
S :
「アミ族にとっての昔ながらの歌は、出来事を記録するための手段で、例えば『山で牛が一匹いなくなった』だとか、そういう内容のもの。今では、伝統的な“歌唱法”(註2)で新たに歌を作る人はいなくなってしまいました。僕は伝統を取り入れながらアレンジして自分なりの創作をしたり、もちろん他にもいろいろな種類の曲を書いています」
──
なるほど。伝統は大切にしつつも、バンドにとってはアミ族の歌唱法は表現の一部なんですね。
S :
「バンドの活動に限っていえば、今は文化を守ることよりも、カッコいいかどうかのほうが重要になってきたかな。自分のやりたいことは、ソロで表現できればいいと思っています」
──
最後に、映画では他のメンバーへのインタビューもありましたが、ギターのアシンによる、「故郷にいると居心地がいいけれど、怠け者になってしまう」という発言が印象的でした。スミンはその発言をどう思いますか?
S :
「僕もやっぱり、村に長くいるとつまらなくなって外に出たくなる。でも、外に長くいると今度は帰りたくなってくる。その繰り返しです」
W :
「映画の完成後もスミンと詳しく語り合ったわけではないから、感覚を共有できているかどうかはわからなかったんですよね。僕と同じように田舎があって、都会で働いている彼が、こんな風に同じスタンスで人生を生きている、というのがわかってよかったなと思います。結果的に、なんですけれど(笑)」



註2:土着的な響きのスキャットを特徴とする、アミ族伝統の歌唱法。
TOTEMの「我在那邊唱」や、90年代にヒットしたENIGMAの「Return to Innocence」でも聴くことができる。


 

『トーテム song for home』

監督/撮影/編集:若木信吾
出演:TOTEM(圖騰)
制作:東北新社
配給:ヤングトゥリーフィルムズ
2009/日本/カラー/ビスタサイズ/ステレオ/85分

10月24〜11月13日 シネマート六本木
11月7〜13日 名古屋シネマテーク
11月28〜12月4日 新潟十日町シネマパラダイス
12月12〜18日 沖縄桜坂劇場ほか、全国にて公開

http://www.totem-movie.net/