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THINK PIECE

VAN SHE

これぞ男性版「生けるヴァージン・スーサイズ」?!
中毒性MAXの、豪州発エレクトロ・ポップ・バンド

09 6/3 UP

Photo:Shoichi Kajino Text:Mayumi Horiguchi

オーストラリアのシドニーを拠点に活動するヴァン・シーとヴァン・シー・テック。この二つのユニットは、同じメンバーから構成されているが、前者はロック・バンドであり、後者はDJチームである。ヴァン・シー・テック名義にて、ダフト・パンク、ファイストやクラクソンズなどのリミックスを手掛けて知名度を上げた彼ら。結成は2005年だが、フルレングスのアルバムは、なんと昨年になるまで(本国では9月、日本では12月)リリースされていなかった。なぜ、そんなに長期間、フルアルバムが出なかったのか?!  ヴァン・シーの奏でる“バンド・サウンド”はと言えば、80年代ニュー・ウェーブやファンク、シンセサイザー・ポップなどを取り入れた、キャッチーでエレクトロニックなダンス・ミュージック。聴くものの心をとらえるロマンチックな甘いメロディーが秀逸。フランスのティーンネイジャーズもそうだが、ソフィア・コッポラ監督作品『ヴァージン・スーサイズ』や、ジョン・ヒューズ監督の手による、80年代アメリカン・ハイスクール青春恋愛映画への深い傾倒が見て取れる。オーストラリアといえば、出身俳優やバンド、共に“マッチョ”なイメージがあるが、彼らの人とサウンドには、それは感じられない。“草食系男子”的なものや世界観は、いまや全世界的なブームとなりつつあるのか?! それら疑問点を解明(?)すべく、「ブリティッシュ・アンセム2009」のスペシャル・ゲストとして来日したバンドに、インタビューすることに。リードシンガーのニックと、シンセサイザー&ギター担当のマイケル、二人に話を聞いた。

VAN SHE/ヴァン・シー

ニコラス・ルートレッジ(ヴォーカル/ギター)、マット・ヴァン・シー(ベース/ヴォーカル)、マイケル・ディ・フランチェスコ(シンセサイザー/ギター)、トーメク・アーチャー(ドラムス/シーケンサー)から成る4人組バンド。2005年初頭にシドニーにて結成された。同年11月にデビュー・ミニ・アルバム『Van She EP』をリリースし、注目を集める。翌年からは<ヴァン・シー・テック>名義にてDJ活動を開始。クラクソンズ、ダフト・パンク、ファイスト、大沢伸一などの曲を手掛けたリミキサーとして知名度もアップ。昨年、待望のファースト・フルレングス・アルバム『V』がリリースされた。

Official Site
http://www.vanshe.com
http://www.universal-music.co.jp/u-pop/artist/modular/uico1159.html

MySpace
http://www.myspace.com/vanshe

 

──
まず、バンド結成のいきさつについて聞きます。プレス・リリースによれば「シドニーのドラム雑誌に掲載されたニセのヴォーカル・オーディション会場で会った。ちなみにその広告の内容は、“セパルトゥラやエントゥームド、そしてフィル・コリンズに影響を受けたドゥーム・メタル・バンドのヴォーカル募集!”というムチャクチャなものだった」とあります。なんかウソくさいんですけど、実際のところはどうなの?
ニコラス・ルートレッジ(以下N)
「(笑いながら)ああ、やっぱり分かっちゃった?! 」
マイケル・ディ・フランチェスコ(以下M)
「くくくっ(——と笑い続ける)」
──
やはり、作り話でしたか(笑)。
N :
「そう(笑)。でも、僕らがインタビューを受けるたびに、その話が引き合いに出されるんだよね。インタビュアーがみんな、こう聞くんだ。『メタルやってたんですか?!』ってね(笑)。でも実際は、僕らの誰も、メタルにはそこまで入れ込んでないんだよね(笑)」

──
じゃあ、本当のところはどうだったのか、教えてください。
N :
「実際はシドニーのナイトクラブでだよ。Tsubi(*ツビ;オーストラリア発のファッション・ブランド)が“BANG GANG”と銘打ったイベントをオーガナイズしていたんだけど、その夜はみんな酒を飲んで酔っぱらって、一晩中、いろいろな別の種類のダンス・ミュージックを堪能しながら、盛り上がってたんだ。それが、僕らがバンドを結成することになった、本当のいきさつだよ(笑)」
──
なるほど(笑)。ところで、やっとデビュー・フルレングス・アルバム『V』が発売されましたが、なぜこんなに長い間、リリースされなかったのですか。
N :
「あ〜(苦笑)」
M :
「くくくっ(——とまた、笑い続ける)」
N :
「実は、アルバムのレコーディング自体は、二年前に終わってたんだ。でも、所属レコード会社における組織変更みたいなこととか、とにかくレーベル側の諸事情なんかもあって、その完成当時には、アルバムを出せなかった。でも、その間に、既存曲のリミックスを手掛ける時間が出来たんで、『ケリー』と『ストレンジャーズ』の別リミックス曲も、今作に収録できたんだよね。あと、僕らはアナログ機材を買うことに、取り付かれているんだ(笑)。そのための資金を調達するために、他バンドのリミックスを続々と手掛けてきたとも言えるね(笑)」
M :
「そう、それがレコードが出るまでに時間がかかった、もうひとつの理由でもある」
N :
「機材を買うために、リミックスする。で、金が入ったら買う。ず〜っと買い続ける。ソー・バッド!!(笑)。前カノは、それが理由で、僕の元を去っていったし(苦笑)」

 

──
リミキサーとしての話が出ましたが、ヴァン・シーとヴァン・シー・テック、二つの明確な違いってあるんですか?
N :
「基本的には、僕らはDJ集団になりたいってわけじゃないんだよね。僕らは全員、ヴァン・シーを始める前から友人同士で、みんなでダンス・ミュージックやエレクトロ・ミュージックを創作していたんだ。で、ある時誰かが『リミックスしようぜ!』って言い出して、やることになったんだよ。そしてザ・プリセッツの曲なんかをリミックスすることになって、みんなが僕らの仕事ぶりを気に入ってくれて、その後もどんどん続けることになったというわけ。いろんなバンドが僕らにギャラを支払ってくれるし、僕らにはその金が必要だったんだよ、機材を買うためにね(笑)。リミックスを手掛ける時のポイントは、オリジナルの楽曲を“何かどこかしら違うもの”にするっていうことだね。例えばザ・プリセッツの場合だったらパンクっぽく、クラクソンズだったらDATっぽいものにしたりね。バンドの原曲を、ダンス色を強くした作品に仕上げることが好きなんだ」
M :
「DJもバンドも、どちらも楽しんでるけどね。例えば、バンド活動中に、DJに使えるものを発見したり、その逆もしかりっていう感じで。いいミックス具合と言えるね。ずっとフレッシュな気分でいられるしね」
N :
「そうそう」

──
『V』には、コンセプトやテーマはあるんですか?
N :
「アルバム名を『V』にしたのは、ショウのたびに、観客が人さし指と中指を広げて“Vサイン”を作るからだね。アルバムのアートワークについて、どんなものにするか、みんなで考えたんだけど、その“Vサイン”を生かして、こういうジャケにしたんだ。あと、楽曲の歌詞の大半は、映画について歌っているものなんだ。『ヴァージン・スーサイド』も『ケリー』もそうだよ。映画から歌詞を引用しているってことが、今作のコンセプトの全容といえるかも。カット・アップ(*注;シミュレーショニズムの代表的な技法のひとつ。単一の作品の中に複数の要素を混在させ、イメージの異化効果を産もうとさせるもので、シュルレアリスムやポップ・アートにおけるコラージュに相当する技法だが、カット・アップの場合は、より多くの偶然性が介入し、多くの場合、その効果は当の作者をも裏切る効果をもつ)のテクニックだね。デヴィッド・ボウイも作品に取り入れていたけれど、僕は映画を使って、やろうと思ったんだ。歌詞は、ある意味、ちゃんと意味が通るものになってはいるけれど、またある意味では、そうじゃない。これが今作の隠されたポイントかもね」
──
なるほど。映画つながりの質問ですが、ニックさんは、ジョン・ヒューズやソフィア・コッポラ作品がお好きだとか。オーストラリア人の友人に聞いたんですが、彼の地では、英国産の映画やドラマが放映されているケースの方が多いと聞きました。なのに、なぜそんなにも、あなた自身は“アメリカのティーンエイジャーの青春”に惹かれているのですか?
N :
「僕もマイケルも、80'sや90'sに青春を送ったからだろうね。マイケルのお父さんは、レコード蒐集が趣味で、その中に10CCなんかもあったし……。それに僕らはみんな、『ブレックファスト・クラブ(*原題;The Breakfast Club <1985>)』や『すてきな片想い(*原題;Sixteen Candles <1984>)』に使われた音楽を好んで聞いてたんだよね」
M :
「僕らは全員、MTVチルドレンなんだよ」
N :
「そう!」
M :
「で、だからこうなったのさ」