09 3/24 UP
Text:Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
強い神話性を帯びるスーパーヒーローが、「現実のアメリカ社会」に存在したら?
その答えが冒頭から最後の一フレームまで詰まった本作『WATCHMEN』。
映画化が困難と評され、名だたる映画監督の名が挙がっては頓挫する中、原作誕生から
23年の時を経て、フランク・ミラー原作の コミック『300』を「一コマまで完全に再現する」
という手法で、一躍大成功をおさめたザック・スナイダー監督が、同じ手法で「スーパーヒーロー」の全貌を暴く!
アメリカ原産の20世紀大衆文化の中からは、ときに強い神話性を帯びる象徴が生まれることがある。例えば、ロックンロール。ベースボール。一部のアメ車。そして言うまでもなく、アメリカン・コミックス——覆面にタイツ姿のスーパーヒーローが跋扈する物語は、日本でいえば記紀伝説や、戦国武将物語に匹敵するほどの「神話」となり得る場合がある。
では、そうした「神話性」を帯びたスーパーヒーローが、「現実のアメリカ社会」に存在したとしたら?——この発想から編まれたストーリーが『ウォッチメン』という名の伝説的な傑作コミックだ。そして、その「完全なる」映画化作品が本作。であるから、まさしく冒頭から、本編最後の一フレームまで、上記の仮定に対する答えが詰まっているような内容となっている。
その答えとは、こうだ。「スーパーヒーローが現実のアメリカ社会に存在した」ならば、「想像を絶するほどの悪夢的世界」が現出する——例えばそれは、こんな具合に。
●第二次大戦を終結させたのはスーパーヒーロー。
●JFKを暗殺したのもスーパーヒーロー。
●アポロ11号月着陸の陰にもスーパーヒーローあり。
●スーパーヒーローの尽力によってニクソン大統領がウォーターゲート事件を揉み消し、なんと三選(!)を実現。
●もちろんヴェトナム戦争にも(ヒーローのスーパーパワーで)勝利。
そして悪夢のような80年代がやってくる。「終末時計」が刻々と「残り時間」を減らしてゆく中、ソ連のアフガン侵攻によって東西の緊張が高まり、ニクソンは核戦争を決意。同時に、スーパーヒーロー集団「ウォッチメン」のメンバーが謎の死を遂げる。次に狙われるのは誰だ?——というのが、本作のストーリー大枠。中心となる時代設定は、「ウォッチメン時空」での85年となっている。
残念なことに、日本ではなぜか、本作の正体を隠すかのような宣伝がおこなわれているので、『20××少年』かなにかのような印象を持っている人も、いるかもしれない。それはとても残念なことだ。実際には、これは極めつけの「スーパーヒーロー物語」なのだから。上に列記した「歴史的大事件」のすべて(+α)について、スーパーヒーローがどう関与したのか、とてつもない映像で全部見せてくれるのだから!