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THINK PIECE

BUSY P×KIRI

BUSY PとKIRIがカルチャー・シーンに送る
グッド・エデュケーション

10 3/25 UP

Photo: Shoichi Kajino (Interview), Satomi Yamauchi (Live) Text: Shoichi Kajino

──
ミックステープ?
K :
「これはどういうかたちになるかまだ企画段階で、例えばオンラインで公開するのか、CDにするのか…ちょうど考え中なんです。それにしても、今は世界のトップDJたちがエクスクルーシヴの楽曲を入れたMixをネットに上げていて、それが無料でダウンロードできたりストリーミングで聴けたりする時代なのに、たいしたエクスクルーシヴもなく、1曲づつライセンスをとってミックスCDというパッケージで2500円くらいで売っているという日本の状況は、ある意味奇跡的とも思えますよね。こういう現状を見ていると、やっぱり日本の音楽業界のシステムは良くも悪くも遅れているなと感じますし、タワーレコードのような大型店があのような形であるのも世界的にみても奇跡だと思います。もちろん、それは僕らには嬉しいことですけどね。ある意味ではオアシスというか」
P :
「ひとつの説明としては、まだまだ日本では物質主義の考え方が強いからだろうね。物として手に取りたい、所有したいという人が多いんだろうね。だからこそいまでもミックスCDが売れる。フランス人の場合、もはや音楽はmp3だけでもいいし、CDだったりレコードだったりというフォーマットにこだわっている人はいないように見えるな」
K :
「僕がまだ10代の頃、ダフト・パンクのファーストがリリースされた時に強い記憶として残っているのは、ルーブルの地下のヴァージン・メガストアでそのレコードを買ったんですけど、あの頃はたくさんの12インチレコードがずらりと並んでたし、ジャンルもかなり細かく分けてあって素晴らしい品揃えでした。今ではCDさえ恐ろしいほど少なくなってしまって、並んでいるのはDVDと本ばかりなんですよね」
P :
「それは音楽の『産業』が死んだからだろうね。でも決して『音楽』自体は死んではいない」

 

──
むしろキッズたちはレコードを買わずしてより多くの音楽と接することが出来るようになったから、より積極的に音楽を聴いているような印象さえ受けますよね。
P :
「まったくその通り。音楽だけではなくインダストリーのあり方が変わったわけだから、プロデューサーやレーベルは新しい役割を見つけないといけないんだ。僕らのアーティストや音楽を殺さないためにも。音楽の売り方や、音楽でどのようにお金を儲けるかを探らなくてはいけない。もちろん僕らには自信があるよ。例えばNYでのED BANGERの7周年パーティでは40ドルのチケット3000枚がすぐにソールドアウトになった。キッズが音楽にお金を払わないというのは事実じゃないんだ。ずいぶん前にプリンスは『新しいアルバムを無料で配布する、それはコンサートに来てくれるためのプロモーション・ツールだから』という発言をして業界は騒然となったけど、実際に時代はそのように向かっているしね。たしかにアーティストにとっては自分が一生懸命作ってきた音楽を無料で配るというのは勇気のいることだったかもしれないけど、状況は変わってきてる。考えようによっては、これは'80年代、'90年代の音楽業界のバッド・エデュケーションのせいだったとも言えると思うんだ。アルバム一枚の値段が15ドル、あるいは20ドルっていうのがそもそもオーバープライスだったんじゃないのかってね。だれもそれに疑問を持たずお金を払ってCDを買い続けてきたけど、実際のCDの製造にかかる金額って1ドル程度じゃない? それに乗っけている音楽の値段は誰も決められないはずだからね…。何度も言うけど、僕は自分たちのレーベルに自信を持ってるよ。それは自分たちの作っている音楽、作っているアートに自信があるからだよね」
K :
「ED BANGERは、いまやダンス・ミュージックのレーベルというよりも、ひとつの“音楽”レーベルとして見えますよね。音はエレクトロだったりヒップ・ホップのスピリットだったりするけど、アティテュードとしてはパンクだし、絶対にブレていない。強力なアイデンティティが確立されているから、時代は見えていないといけないけれど、作る音が時代に流されることはないですし。その辺のバランス感覚が最も素晴らしいと思うし、見習いたいところです」
──
同じことでKIRIくんの本業であるファッションでも同じようなことに当てはめてみるとそうですか? たとえば粗悪なコピー商品は別として、SO MEによるオリジナルなグラフィックは、Tシャツやパーカーという商品にやはり大きな付加価値を与えてくれるわけですよね。
K :
「僕はファストファッションのような流れを否定するわけではないけれど、最近のその台頭によって、よりユニークなものを作らなきゃいけないということを意識するようになっていて、逆にそれがいい刺激になってるかもしれませんね。値段ではないところで勝負して勝てるものを。そういう意味では自分の周りの日本の友達だったり、ペドロやJUSTICEだったりに気にしてもらえて、着てもらえるようなミニマルだけど刺激のある洋服を作っていきたいと思ってます。」