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THINK PIECE

MASSIVE ATTACK『HELIGOLAND』

マッシヴ・アタック史上最もタイトで「マッシヴ」な新アルバムを3Dが語る。

10 2/5 UP

text: Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)

ついに……ついに発表されたマッシヴ・アタックのニュー・アルバム『ヘリゴランド』。前作『100th Window』から7年。それだけ待たされた甲斐はある、いかに現在の彼らが充実期を迎えているかを示す、くっきりと焦点が絞られた好作品となった。もちろん——いつもどおりの慣習で——すでに世間では賛否両論が渦巻いている。それこそがマッシヴ・アタック! 予想や期待に逆ねじを食らわせながら「次のフェーズ」へとマイペースで歩を進めてこそ彼らなのだから。しかも今回は特筆したいことがある。国際的なメガヒットを記録、ついに天下(=アメリカ)をも手中にした前々作『メザニーン』以降、どんどんと密室性を高め、3Dことロバート・デル・ナジャの脳内世界の転写へと傾斜していた方向性が消滅(=逆ねじ)。ゆえに今回は、暗いんだけどあたたかい、エッジーにしてグルーヴィ、シンプルかつドライヴィン、思わず「お帰りなさい!」と発した自分の声に振り返ってみれば「唸るベースライン」!……およそこれまでの彼らの美点の大半を、ニュー・スタイルの中へと召喚、そこで自在に遊ばせたかのような一枚となっている。ダディーGことグラント・マーシャルも全面復帰! ブラーのデーモンほか、TVオン・ザ・レイディオのトゥンデ・アデビンペ、インディー歌姫の星ホープ・サンドヴァル、もちろんホレス・アンディ……といった多彩な顔ぶれも参加。噂ではボウイやパティ・スミスやトム・ウェイツやマーク・スチュワートやトリッキー(おお)とも作業を進めていたそうな。

憶えている人は、身を前のめりにしてほしい。ここ東京でも、薄暗い地下のクラブというクラブのコンクリート壁をびりびりと鳴らしたあの震動。明らかなる路上の不良がレゲエとヒップホップとパンク・スピリットから、「まったく新種の」音楽モードを世に解き放った瞬間のあの興奮。そして、以来一度も、立ち止まらずに先頭を走り続けていたユニット——マッシヴ・アタックの、もしかしたらこれまでで最もタイトで「マッシヴ」な一枚がこの『ヘリゴランド』なのだ。

この取材は当初メール・インタヴューを試みたのだが、締切を過ぎても全然返事がこないため(?)、3Dが直接電話にて答えてくれることになった。結果、ちょっとこれは逆に得したような気分になったことを、ここに付け加えておきたい。

 

──
最初にアルバム・タイトルについて教えてください。「ヘリゴランド(Heligoland)」というのはドイツの島の名前と同じですが、そこから取った?
「そのとおり。実在する島なんだ。イギリスやデンマーク、ドイツが長い間奪い合い続けた歴史がある島で、いろいろなパーソナリティーが結集しているという意味で、いいタイトルだと思ったんだ。そもそも最初は、ひとつのフレーズや単語をタイトルにするつもりがなくって、いいのが思いつかなくて。そこである日『Hell Ego Land(「自我地獄の地」)』っていうフレーズを思いついた。それに似た音ということで、この島にたどり着いたって感じかな。島についてちょっと調べてみたら、いろいろと興味ぶかい歴史があって、それでさらに気に入った。アナグラム的な面白さがある地名だとも思うしね。『Lego Land』にだってなるし」
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作曲家アントン・ブルックナーにも同名の声楽曲がありますが、これは彼が最後に完成させた作品でもあります。まさか「これがマッシヴ・アタック最後のアルバム」という意味はないですよね?
「(笑)残念ながら、いまのところは、そういう意味はないね」
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では、インターバルの長さについて訊きます。04年あたりから毎年のように「もうすぐマッシヴ・アタックの新作が出る」との噂がありましたが、結局、前作から7年も経ってしまいました。この間、何をしていたんでしょうか? 曲作り?
「うん。曲作りはつねにしていた。あと、俺たちはその7年の間、ずっとツアーに出ていたし、GはDJしていたし、俺はサウンドトラックをいろいろ作った。08年は2人で『メルトダウン』(注;ロンドンで開催される音楽とアートのフェスティヴァル)をキュレートしたり。世界を何周もしたし、ライヴでは新曲をプレイしたりもしていた。だからね、この7年間を『インターバルだった』とは決して思っていないんだ」
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その7年間は、断続的にせよ、スタジオでずーっとアルバムを作っていたんでしょうか? つまり「制作期間7年!」というものなのか、それとも、曲は溜めていたけれども「最近になって急にトラックをまとめた」ものなのか。どちらなんでしょう?
「『急にまとめた』というよりもね、一回出来上がっていたアルバムを、スクラップにしたんだ。ほぼ完成していたアルバムの収録曲をツアーで試したりして、そのあとで実際に振り返って聴いてみたら『違う』と感じてね。そうと決まってからは比較的速い進行だったと思う。本格的に作業をしたのは、昨年の冬から半年間ぐらいかな。そこで集中して仕上げた」

 

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僕が聴いた印象では、このアルバムは、これまでで最も「バンド・サウンド」っぽい感じがしました。シンプルかつヴァイタルな躍動感を最も強く感じました。なおかつ、初期二作品、『ブルー・ラインズ』や『プロテクション』の時代を思い起こさせるような印象もありました。しかしこれは矛盾しているというか、あの2作はサンプリングを多用していたし、ビートも全然違います。同じになるわけはないのに、通じるものを感じたのです。こうした感想は変なものなのでしょうか?
「いや、変なものなんかじゃないよ。ありがとう。『ブルー・ラインズ』や、初期の作品っぽいって言われるのは、おそらくどちらもコミューン的なアルバムだからだろうと思う。今回のアルバムは、かつてのように、いろいろな人、いろんなパーソナリティーやエネルギーが注ぎ込まれて完成したものなんだ。残念ながら先日亡くなったジェリー・フックスとかね。たしかに今回は一切サンプリングはしていない。できるだけシンプルに、オーガニックなものを作ろうと試みた。モニタを見て、波形をいじって仕上げるんじゃなくってね。シンプルなサウンド、生楽器、そういったライヴ感を大事にしたんだ。ワールド・ツアーからのフィードバックが大きかったんだと思う。シンプルかつライヴ感が高いもの。そこはすごく意識した」
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いまのところ、僕が最も好きなトラックは「パラダイス・サーカス」です。ベースラインが最高です。
「ベースを弾いたのはビリー・フラーだね。あの曲はホープ・サンドヴァル(元マジー・スター)をゲストに迎えたんだけど、この曲だけなんだ。スタジオで実際に俺たちと一緒に録ってないのは。だから今回、まだ彼女には会ってないんだよ。ネットの力を借りて作業を進めたんだけど、驚くほどスムースにいってね。彼女はGのお気に入りで、コンタクトしたらすぐに了承してくれて。次に全米ツアーに出る時は、ぜひ一緒に参加してほしいと思っている」
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同曲はエロティックなPVもネット界で話題となりましたが。
「今回はプロモーション・ビデオという言い方をしていないんだ。フィルムと呼んでいる。『パラダイス・サーカス』のフィルムも気に入っている。俺たちはPVというフォーマットに関して、クリエイティブ・コントロールを放棄したんだ。若手映像ディレクターに全部任せて、最後にアプルーヴするだけにした。もちろんすべてがすべていいわけではないけど、いまのところ、才能を持ったディレクターが世の中にいっぱいいることがわかってきただけでもすごく面白い」
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これはよく訊かれる質問かもしれませんが……あなたがたは、いつも数多くのヴォーカリストを起用しますが、歌詞を書く際に、誰が主導権を握っているのですか? ヴォーカリストなのでしょうか? だとしたら、これほど整合性のあるアルバムになるわけがないし……それとも、最初にトラックを作って、それからヴォーカリストがメロディーをつけて、最後にマッシヴ・アタックが歌詞を書くのでしょうか? これは長年の謎なのです。教えてください。
「どちらの場合もあるね。ヴォーカリストが詞を書くこともあるし、俺たちが書くこともある。的確な答えになるかどうかわからないけど、俺たちは『ゲストを招く』とは思っていないんだ。大抵は友だちがスタジオに遊びに来てくれて、仲良くなるうちにビューティフルなトラックが完成する、といった感じかな、わかりやすく言うと。昔からそうだった。だから主導権がどこにあるのかっていうのは、わからない。ブラーのデーモンもホレス・アンディもガイ・ガーヴェイもみんな、俺たちの友だちなんだ」