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THINK PIECE

PETER SUTHERLAND×KEN MILLER

ピーター・サザーランド、ケン・ミラーが語る
写真の現在、そして未来。

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Photo: Shoichi Kajino Text: Takeshi Kudo (RCKT / Rocket Company*) Translation: Tomoko Okamoto (Gallery Target)

2009年11月、渋谷のパルコファクトリーにて、写真集『SHOOT: Photography of the Moment』の日本発売を記念した
写真展『SHOOT –カメラが捉えた一瞬が語ること−』が開催された。キュレーターであるケン・ミラーと、
参加写真家のピーター・サザーランドが写真の現在を語り、そして写真の未来を見通す。


Ken Miller(ケン・ミラー)

2002年から2007年まで『TOKION』の編集長を務める。 2007年『TOKION』を通じて10年間のアートトレンドをまとめた『Revisionaries; A Decade of Art in Tokion』を出版。 東京では表参道のUnited Bambooの店内で出版記念の展覧会を開催。現在は『Anathema』を出版しているほか、フリーの編集/ライターとして『City magazine』『V magazine』『Uniqlo Paper』『Interview magazine』 などで活躍中。また、Phillips de Puryの2009年スプリング・オークションではコンテンポラリー・アート部門のコンサルタントも務めている。

Peter Sutherland(ピーター・サザーランド)

2004年に初の写真集『AUTOGRAPH』が刊行されて以来、『COMING HOME』『PEDAL』『GAME』『HISTORY OF EARTH』『HOME AND AWAY』『BUCK SHOTS』『MUDDY TREADES』など多数の写真集を発表。2007年には表参道White Room Galleryにて個展を開催。そのほか、リチャード・プリンス のドキュメンタリー・フィルムやVICE TVで映像を撮り続けている。AdidasやNikeの広告も撮っており、彼の作品はアメリカはじめ、日本、ヨーロッパ、オーストラリアのギャラリーにて発表されている。

 

──
まずは、キュレーターのケンに『SHOOT』を構想したきっかけを聞いてみたいんだけど。
Ken Miller(以下:K)
「2007年までの5年間、僕は雑誌『TOKION』の編集に携わっていて、『TOKION』に掲載された過去10年間のアートワークをまとめた書籍『Revisionaries: A Decade of Art in Tokion』を2008年に出版したんだ。『SHOOT』は、それに続く2冊目。この本を作るにあたって、まず僕は本に載せたいフォトグラファーをリストアップすることから始めた。重視したのは、フォトグラファーの“スタイル”だね」
Peter Sutherland(以下:P)
「いわば、ドキュメンタリーフォトのスタイルだよね?」
K :
「そうそう。だから、例えば何か共通したものを撮った写真であるとか、共通のテーマを持った写真であるとか、そういった観点でキュレーションしたわけじゃないんだ。強いて言うなら、たくさんの写真を(それは日常のさまざまな風景を切り取ったようなスタイルの写真だけど)見てきたなかで、僕が直感的に選んだフォトグラファーたち。もちろんピーターもそういうスタイルだよね」」

P :
「僕は楽しんでこういう写真を撮ってるよ。何かを自分に課す、自分に厳しくというよりは、パーソナルワークとしてね。撮影するものや人に対して、いつもシンプルに向き合っている」
K :
「こういうスタイルの写真の面白さのひとつに、撮った人の人間性が強く反映されることがあると思う。ピーターの写真からは君の寛大さが感じとれるし、例えば、そのヒゲとかが透けてみえるよね(笑)」
P :
「(笑)。僕は写真を見ると、撮った人がどんな人なのかを知りたくなるし、その人の人間性を想像する。でも、例えば、幾何学模様のペインティングなんかを見ても、まったく描いた人のことは想像できないよね」
K :
「確かにそういう作品からは、アーティストのパーソナリティーがまったく伝わってこないね。一方『SHOOT』のようなスタイルの写真には、生々しくフォトグラファーのパーソナリティーが反映されるのと同時に、作品の中にフェイクの人間性が写し出されることもあると思う。写真から強く人間性が滲み出してしまうからこそ、フォトグラファー本人に会う前に写真を見ると、その人に会ったような気になってしまう。『SHOOT』に参加してくれたフォトグラファーたちのことを思うと、それが写真から読み取った人間性なのか実際の人柄なのか、いつもとても混乱させられるんだ(笑)」

 

──
『SHOOT』に参加しているファグラファーが持っているようなスタイルは、今後、写真業界でも主流になっていくのかな?
P :
「写真の将来について考えたとき、僕たちがやっている写真のスタイルは、この先どうなっていくんだろうって思うよ。写真自体が今すごく簡単に撮れるしカメラの性能もどんどん上がっている。誰でも簡単に写真が撮れるようになっているからさ」
K :
「多分、時代ごとに変わっていくのが写真の面白さだと思うんだ。写真技術が発明された頃は値段も高かったし、一般の人はカメラの使い方もわからなかった。カメラそのものが大掛かりな機械だったけど、リフレックスカメラだったりポラロイドカメラだったり、技術が進歩して普通の人が使えるものに変わったよね。今はデジタルカメラが携帯電話に付いているくらいだし」
P :
「映像ですらポーズすれば写真になるしね」
K :
「そうそう。写真にもいろいろな様式が生まれてきてるよね。写真そのものが巨大だったり、レタッチを駆使して非現実的な風景を作ったり。『これは写真だ』って断言できないようなものもたくさん出てきている。一方で『SHOOT』のようなスタイルもあるわけだけど」

P :
「僕のようなスタイルのフォトグラファーにとっては、写真をエディットすることがすごく大事になってくるよね」
K :
「それは僕も『SHOOT』を作っていて感じたよ。編集者は僕だけど、僕がエディットするんじゃなくて、写真家がエディットしていることが大事。ちょっと話が変わるけど、僕は脈絡なく写真を集めてきて写真展を開催するのは嫌いなんだ。5枚くらいの写真がただ並んで飾ってあるような写真展がよく開催されているけど、そこにエディティング、キュレーティングという要素がなかったら、僕は面白さを感じない。そう考えると、写真をコレクションするということも難しいことのように思えるね」
P :
「僕たちのようなスタイルの写真は、1枚だけで完結する写真は少なくて、何枚かが集まってストーリーを表現している場合が多い。写真をエディットすることで物語を作り上げるものだよね」
K :
「ところで、ピーターはどこかでエディティングを学んだの? 3、4年前と今の君の写真を見比べると、エディティングという部分でかなり進歩しているようにみえるんだけど」
P :
「そうだね。PAMBOOKSのミーシャと一緒に写真集を作ったときに学んだと思う。本を作るとき、僕は初め、気に入っていた写真を彼にただ送ったんだ。そしたら彼が写真を見て、編集作業を加えたものを送り返してくれた。それがすごくストーリーを感じさせるものになっていて、それがきっかけで写真を選ぶこと、編集することに、無意識のレベルなのかもしれないけど、注意深くなったんだ思う。そのときから、本を作るときもエキシビションを開くときも、会場に何も飾らない一面を作ったり、ただ並べるだけじゃなくて空間そのものをエディットすることを考えるようになったんだ」
K :
「僕の場合は学問的に写真を学んだわけじゃないけど、大学を卒業してから10年間、エディターとして雑誌に関わってきた。やっぱり、仕事を初めた頃に比べたら写真の見方がまったく変わっているね」