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THINK PIECE

cross point

日本の写真カルチャーに送り出す、ニコイチ写真という試金石

10 5/11 UP

Text: Takeshi Kudo (Rocket Company*/RCKT)

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銀塩じゃないと写真じゃない、と言う人もいるでしょうしね。
「でも、それが悪いわけでも駄目なわけでもなく、それもルールのひとつだと思う。音楽を聴くならアナログ盤がいいとか、アンプは真空管じゃなきゃ駄目だとか、そういうのと同じで、もっと高性能なものがあるのはわかっているうえでの遊びということだから。ファインアートもルールが寛容という特徴はあるけれど、議論の枠組みが違うということにすぎない。楽しいだまし合いの空中戦じゃないですか? その中でどこに入れられるのかな、という興味はありますね」
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言い方を変えれば、合成というツールを使って写真の世界からファインアートの世界に一歩、足を踏み出したとも言えますね。日本では、そういうはみ出し行為を積極的に行っている写真家が少ない気がします。特に合成という観点では、ネガティブなものとして捉えられがちで。
「最近、修正というのはマイナスをゼロにする作業で、合成はゼロをプラスにする作業、なんて言い方をよくするんですが、確かにその認識は浸透していません。まだ合成も修正の一環という認識で止まっている。それから、日本にはカメラ文化はあるけど写真文化がないとも感じます。結構みんな忘れがちなんだけど、日本は世界一のカメラメーカーで世界のカメラの7割を作っている。だからだと思うけれど、どう撮るかという話はよく聞こえてくる一方で、どう見るかという視点が欠けている。日本以外の国では、どう見るかという文化が先に進化しているのかな、と感じますね」

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日本では、どう遊んでいるかコンセプトがどうか、という部分に着眼する目がないということですよね。キレイというところで終わってしまっているというか……。
「そこで終わらすのがよくないよね。空や海や猫みたいな被写体を撮るのはいいんだけれど、空に眼差しを向けたのは何故? という部分が大事なのに。被写体やコンセプトよりも、キレイであることが一番の評価軸になってしまっている。見る人をハッピーにしたり気持ちよさを与えたり、感情に働きかけることがすごい写真だという考え方はわかる。わかるけれど、それだけじゃないよと思うんですけどね」

 

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海外では、さらにもう一歩、先に行っているのに、ということですよね。
「そうそう。例えばファインアートの世界で、なぜ写真が通用するのかと言えば、実は何を撮ったかなんてあまり関係なくて、評価されるのはコンセプトの方だったりする。写真を前にいかに面白いことを言えるかどうか。最後は写真家その人のバイタリティが評価されるわけじゃないですか。じゃあ、自分が面白いことを言っているかと問われれば、まだまだだったりするんですけど(笑)」

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P.M. Kenさんの作品をきっかけに、こういう写真もアリなんだというふうになれば、日本の写真文化が一歩先に進むかもしれないですよね。
「そうなってほしいですね。でもたぶん、何の勉強も予備知識もなくこの作品を見た人は、まず最初にどこではめてあるのかという部分を見ると思う(笑)。それも見どころのひとつではあるので、全然構わないんですけど。でも、僕が表現したいのは、2つのものがひとつになっている違和感だったりする。今、世界がフラット化するグローバル化すると言われていて、それが歓迎されている空気がありますが、それは本当にいいことなの? とも思うんです。村から街、街から国、国から世界となったとき、それぞれの文化が持つ街のランドスケープは均一化の方向に進みますよね、当然。人が社会の中で合理性を追求していくと、どんな文化を背負っていても、街はシステマティックに同様の機能を備えていくんじゃないか。発展の行き着く先に何があるのかはわかりませんが、僕がやっていることは、それぞれの成長過程を照らし合わせるという意味もあるのかな、という気もしています」
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今後もこのシリーズは続けていく予定ですか?
「今回やった都市から広げていくと思います。人の暮らしで縛るのであれば、もっと田舎のランドスケープでもいいし、もしくは時代をさかのぼっていくのも面白いかもしれない。アイデアとしては、いろいろな広がり方を考えています。直近では、このヨーロッパ編の次にアメリカ編をやりたいなと思っていますけどね」

 

P.M.Ken cross point

会期 : 2010年5月14日(金)~5月26日(水)
会場 : GALLERY SPEAK FOR
東京都渋谷区猿楽町28-2 SPEAK FOR B1F T.03-5459-6385
開館時間 : 11:00~20:00 最終日のみ~18:00 木曜休廊 入場無料
http://www.galleryspeakfor.com/