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THINK PIECE

SUZUKI MATSUO

松尾スズキが語る、演劇界の今。

10 2/25 UP

Photo:Kasane Nogawa text:Eiji Kobayashi

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先頃、芥川賞候補になった小説『老人賭博』では映画のロケ現場が舞台でしたよね。また、シアターコクーンでやられた舞台『女教師は二度抱かれた』では「演劇」についての演劇の話でした。そういったメタ構造にこだわりはあるのですか?
「というよりも、〈演じる〉とか〈演劇・映画を作る〉ということを『所詮、暇つぶしだよ』って、対象化して言いたいというのがあるんです。それをことさら神聖視する向きもありますが、芸術というものも見方を変えれば、暇つぶしに命を懸けてる様を滑稽な対象として考えることも十分できるわけです。その滑稽な部分に光を当てると、いっぱいドラマが見えてくる。いやもう俳優とかね、滑稽ですよ、ホントに。何にもないのに窓拭くしぐさしたり(笑)。映画を監督している時でも、“これは馬鹿なことなんだ”っていうことを常に頭の中に置いてないと、ちゃんと対象として見れないというか、こっ恥かしくなっちゃうんですよね」
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「笑い」の視点は重要ですよね。その感覚は若い世代にも受け継がれていると思いますが。
「でも僕ら以降で、〈笑わせる〉ということに血道を上げている劇団って、出てきてはいるんだけど、無くなってきていると思いますね。演劇の中で笑いは副産物で、純粋に笑いが一番スゲエって思ってる人たちは、今みんなお笑いに行っちゃう。昔は僕たちやケラ(リーノ・サンドロヴィッチ)さんみたいに、演劇で笑いを作るみたいな劇団が幾つかあったんですけど、今はほとんどないと思います。それは寂しいっていえば寂しいですね、演劇でしかできない笑いって絶対ありますから」

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滑稽さや笑いとも関係してると思いますが、松尾さんの作品では、ある極限状況を突き詰めていった先に、何か救いのようなものが浮かびあがってくる気がします。
「まあ、書いてる話が酷い話が多いんで、でも僕本人はそこまで酷い人間じゃないから、どうしてもちょっと救いが欲しくなるんですよね。見る側としても、完全に救いのない話ってあんまり好きじゃないんで。そこはなんか、精神的な逃げ道というかな、そういうものは残したいなと思って。でも、酷い話は好きですね、基本的に(笑)」
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最後になりますが、松尾さんは過去に影響を受けたものをあまり話されたことがないように思います。大学ではデザインを学んでいて、若い頃は絵をずっと描いていたと聞いていますが、アートの分野で影響を受けた作品や人物がいたら教えてください。
「実は、大学入るまでは絵のことよくわかってなくて。というのも、もとは絵というより完全にマンガばかり描いてたましたから。でもデザインの勉強とかしてるうちに、ポップ・アートってすごい面白いということに気づいて、結局それで行き着いたのが横尾忠則さんだったんです。60年代のポスターとか、シルクスクリーンの作品の、ポップと猥雑さがグチャッと混ざった感じがスゴク面白くて。隙間恐怖症的な感じというか、あれがその時の自分の求めてる感じにすごくリンクして。それからコラージュを描いたり模様を描いたり、そういうことを馬鹿みたいにやってました。横尾さんがファインアートのほうに行ってからも結構追いかけていました。それは実は今でもずっと続いてます。展覧会が身近であれば見に行きますし、最近の『少年探偵団』とか『Y字路』のシリーズ、あの過剰さというか、パワーっていうか、あとユーモアもあるし、ビックリさせようみたいな魂胆もすごく見えるじゃないですか。ちょっとインチキな感じとか、“たまらん!”って感じですね。でもそこが人間っぽいというか、最初の話じゃないけどアカデミックに頼らないというか、生理感覚としてしっくりくるんです。現代美術でいうと、会田誠さんが好きですね。もし“村上派か、会田派か”って訊かれら、俺は圧倒的に会田派です。なんか、わかるでしょ?(笑)」

 

野田秀樹芸術監督就任記念プログラム
『農業少女』

2010年3月1日(月)~3月31日(水)
会場:東京芸術劇場 小ホール 1

2000年10月~11月にNODA・MAP番外公演として上演された『農業少女』。

初演版では俳優として出演していた松尾スズキが、野田秀樹作品の演出を初めて手掛ける。本作が初の本格的な舞台出演となる多部未華子のほか、山崎一、江本純子(毛皮族)、吹越満と個性派揃いの役者にも注目。

作:野田秀樹
演出:松尾スズキ
出演:多部未華子 山崎一 江本純子 吹越満
料金:一般 6,500円  サイドシート:3,000円
(全席指定・当日券は全公演、開演の1時間前より販売)

http://www.geigeki.jp