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THINK PIECE

GRV Lesson 2012

新しいchappieを通じて体系化される、「チャッピー・システム」

12 8/23 UP

photo: Kentaro Matsumoto interview: Tetsuya Suzuki

7月21日から9月9日まで、銀座のポーラミュージアムアネックスで開催中の展覧会「groovisions Lesson 2012」。
デザインスタジオgroovisionsを代表するキャラクターであるチャッピーのフルリニューアルとは?
その狙いや展覧会のコンセプトを確かめに、会場に代表の伊藤弘を訪ねた。

 

──
この展覧会は、この度フルリニューアルしたチャッピーがテーマですが、チャッピーに込められていたコンセプトがアップデートされたということなのでしょうか?
「アップデートというより、これまでのことを一度まとめて保存しておこうというような。むしろ、整理、パッケージングという感じですね」
──
その結果、この展覧会ではグルーヴィジョンズが日頃考えているデザイン理論がチャッピーというアイコンに凝縮されて表現されているわけですね。
「チャッピーは、僕らグルーヴィジョンズがグラフィックデザインをやり始めて、わりとすぐにできたものでした。90年代半ばで、デジタルだからできるグラフィックというのをすごく探していた時期でもあったんです。だから、デザイン理論というよりは、『デジタルならではのグラフィックとは?』というような考えは、結構凝縮されていたと思いますね」

──
その当時、伊藤さんたちが考えていた「デジタル」とはどんなものでしたか。あるいは、何をもって「デジタル」と考えてらっしゃったのでしょうか。
「その当時、考えていたデジタルの定義のひとつは『フレームレス』という点です。空間的にも時間的にも。普通の絵画やグラフィックは、やはりフレームから入るし、フレームの制約から逃れる事はできないわけですが、デジタルの世界にはフレームがない。つまり、フレームのないグラフィックが論理的には可能だろうと。フレームを設定して、そのコンポジションでグラフィックを作るのではなく、グラフィックにある内在的な関係性だけで画像ができる、と。こういうアプローチでグラフィックが作れるのは、デジタルの強みだと思ったんです。今回の展覧会は、これまでのそういった考えを整理し、体系化したものなんです。音楽で言うと、サンプリングされたブレイクビーツみたいに永遠とつなぐことができて、そして、はじめもおわりもないようなグラフィックのシステム、今回、そういったシステムとそこから生まれるグラフィックを展示しようと思いました」
──
その「グラフィックにある内在的な関係性のみのフレームレスな絵」というアイディアが、ついに「チャッピー」を通じて、一つの体系として表現できるに至ったということでしょうか。
「体系としての完成にはとうてい至りません。むしろ、関係性そのものがいろいろと散らかっていたので、こういう時は絶対にこうする、というようなルールをこの機会に整理したかった、というのが正直なところです」

 

──
94年にチャッピーが誕生した時には、そういった体系化をどの程度意識していたのでしょうか?
「最初に作った時はただ単にポストスクリプトの着せ替えをやっていくだけで結構面白かったんです。だけど、それを二体、三体と並べた時に、『あ、これは、なんか、もしかして』と思ったんですよね(笑)。それで最初の展覧会をやったときには、似たようなモノをたくさん並べるというルールを決めてやりました」
──
一般にチャッピーは「かわいい」という印象を持たれるわけですが、そのかわいさの背後にはシリアスなテーマや深いコンセプトというものが、最初からあったわけですよね。
「最初から全部考えていたというよりも徐々に積み重なっていった感じです。例えばフレームレスの空間には理屈として中心があってはいけないじゃないですか? すると、あまり個性的なチャッピーではなく、ベーシックなものを選ばないといけなくなる。その結果、『普通』という変なコンセプトが出て来て、それがまた広がっていき、同時にだんだんとかたちになっていったという感じではあります」
──
「普通」という概念のために、個々に色をつけていく、みたいなことでしょうか?
「いろんな色の人がいっぱいいると、どんどん白、もしくは黒になっていくというか、そういう感じですかね。一体だけだとそれなりに個性的でも何体か集まっていくと、どんどん個性とアイデンティティの輪郭が曖昧になってくる感じがいいな、と」
──
「いろんな色が集まると無色になる」というのは、チャッピーのコンセプトを詰めていくと、人間の個性の否定というか、ある種のニヒリズムみたいなものへ帰結するということを意識していた……?
「それはあるかもしれませんが、そういう意図を中心にやっているわけではないので、なるべくそこには話がいかないようにしたかった。その程度には意識していたと思います」
──
チャッピーは、かわいく、おしゃれに見せているけれど、その一方で匿名的な群衆の象徴と取ることができたり、平面的に永遠と広がる空間での抽象的な存在であったりとネット時代とも共鳴してしまうというか、それこそ、時代を先取っていた部分も多分にあると思います。
「アバター的な表現は、ほとんどそうかもしれないですね」