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Photo & Text:Takashi Okimoto
さて、2014年の写真集をめぐる状況はどうだったのか。パリフォトの期間中に、関係者の注目を集めた写真集のイベントが2つあった。ひとつは前述の「パリフォト-アパチャー財団写真集賞2014」受賞の行方。もうひとつが今年から始まった新しい写真集イベント「Polycopies」だ(※5)。特に後者はアートブック全般に分野を広げたせいで価値が薄まった「off Print」に代わる“濃い”写真集イベントとして注目された。出展したのはリトルプレスか個人参加だったが、そのぶん濃い面子が揃っていたほか、会場ではマーティン・パーやスティーブン・ギルら写真集サイドに属する写真家たちの姿も見られた。日本からも写真家・尾仲浩二が主宰する「ギャラリー街道」や、若手写真家ユニット「GRAF」、後藤繁雄主宰の「アートビートパブリッシャーズ」などが参加した。
「パリフォト-アパチャー財団写真集賞2014」は会期中に発表された。今年は昨年以上に造本のギミックに凝った作品がいくつもノミネートされ、関係者からは「写真よりもギミック優先なのか?」という批判の声すら上がったが、大賞に選ばれたのはオーソドックスなスタイルのポートレート作品『Imaginary Club』で(※6)、作者はドイツ・デュッセルドルフ在住の写真家、オリヴァー・シーヴァー(Oliver Sieber)。出版元は彼自身が主催するレーベル「ブーン・コバヤシ」(Bohm Kobayashi)で、コンテンツは以前Webで公開されたもので、写真集はそれをブックメディアに置き換えたものだが、それでもギミックと見た目の新しさにこだわったいくつもの写真集を退けて栄冠を勝ち取ったのは、写真の力によるものと言うべきだろう。また、同賞に今年から加わえられた「ファースト写真集」カテゴリーの受賞作品になった、イタリア国内に散在する公式に存在する5つのモスク以外の礼拝場をテーマにしたニコロ・デギオルギスの『Hidden Islam』も注目に値する一冊だった。
パリフォト会場で行われるイベントのひとつ「パリフォト-アパチャー財団写真集賞2014」。ノミネートされた20冊程度の写真集が展示され、その中から大賞が選出される
「パリフォト-アパチャー財団写真集賞2014」にノミネートされた写真集の展示風景。もちろん、自由に閲覧できる。装幀のギミックに凝った写真集が近年増える傾向にある
ノミネート写真集のひとつ、フィリッペ・フラグニール『SNOW PARK』(KODOJI PRESS)。写真が見開きではなく左右対向で折りたたんで製本されている。デザイン性が強い一冊として目を引いた
「ファースト写真集」の受賞作、ニコロ・デギオルギスの『Hidden Islam』(RORHOF)。イタリア国内に散在するイスラム教の祈祷所と建物を撮影した骨太なドキュメンタリー作品集
『Hidden Islam』の中身。本を開けると建物の外観の写真があり。片観音開きになっているページを開くと建物内でイスラムの祈りを捧げている光景を撮った写真が現れる仕組み
大賞を受賞したオリヴァー・シーヴァー『Imaginary Club』。装幀はとてもカッコイイがとくに派手なギミックはなく、オーソドックスなスタイルのポートレート作品集。ただし分厚い
※5 主宰者はドイツ・ケルンにあった伝説のセレクト写真集書店「Schaden.com」(現在はWebのみで展開)の店員だった二人の男性、Sebastian Arthur HauとRichard Sporleder。セーヌ川に浮かぶ遊覧観光船(日本の屋形船に近い)の内部をまるまるイベントスペースに使うというアイデアもユニークだ。
※6 ドイツや大阪、東京などのナイトクラブに通う若者や一般人のポートレートと街のスナップショットを収めた432ページに及ぶ分厚い写真集。2013年に作者のオリヴァー・シーヴァーとパートナーのカーチャ・ストゥーケが主宰する出版レーベル「ブーン・コバヤシ」から発行された。2014年の「パリフォト-アパチャー財団写真集賞」を受賞した。http://os66.de/