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ゾエ・カサヴェテス、
『ブロークン・イングリッシュ』を語る。

08 12/22 UP

Text&Photo:Shoichi Kajino

ニューヨーク・インディペンデント・フィルムの雄ジョン・カサヴェテスを父に、伝説の女優ジーナ・ローランスを母に持つという環境に生まれ育ったゾエ・カサヴェテス。映画界のサラブレッドとも言われるゾエによる待望の初監督作品『ブロークン・イングリッシュ』がいよいよ公開された。公開に先立って来日した彼女に話を聞いた。

Zoe Cassavetes / ゾエ・カサヴェテス

1970年、映画監督のジョン・カサヴェテスと女優のジーナ・ローランスの間に生まれる。90年代よりテレビ番組やインディペンデント映画の制作に携わり、2000年にはA.P.C.とのコラボレーションのもと、短編映画『MEN MAKE WOMEN CRAZY THEORY』を発表。CMやPVの監督も手がけながら、2007年に『ブロークン・イングリッシュ』の脚本・監督を手がけ長編デビューを飾る。

 

──
そもそもあなたの作品を知ったのは、A.P.C.がディストリビュートした短編作品「MEN MAKE WOMEN CRAZY THEORY」がきっかけでした。
「もうジャン(・トゥイトゥ)とは知り合って長く経つけれど、当時から本当にジャンにはお世話になったわ。私の初めての作品をとても気に入ってくれて、フランス語と日本語の字幕も付けてDVDで世界中にディストリビュートしてくれて、とてもクールだと思ったわ。それにしても彼はとてもファニーな人よね。クリエイティブで知的で、クールな風貌の下に繊細さを持ち合わせていると思うの」

──
その初の短編が2000年のことで、この作品の発表までは長い時間があったと思うのですが、この『ブロークン・イングリッシュ』の制作はどのように進んだのでしょう?
「私自身はずいぶん前から映画を作る準備は出来ていたんだけれど、資金繰りのこともあって思っていた以上に時間がかかってしまったの。アーティストとして生きていると自分なりの時間軸で動くことができるけれど、ときには投資家の時間軸に従わなければならなかったりというような社会的なプレッシャーを受けることもあるわ。実際には映画の撮影は6ヶ月で終わったんだけれど、その前の脚本にはもっと時間がかかったの。でも今振り返ってみると、私の人生においてはちょうどいいタイミングだったと思う。もし2年早く作ろうとしていたら、同じ作品にはならなかったと思うから。そもそもアートやクリエイションは時間を要するものなの。ファーストフード文化に慣れてしまうと、『今すぐ欲しい』が当たり前になってしまって、映画を撮り終えたばかりだというのに『それで今は何に取り組んでいるの?』と訊かれることだってあるほどよ。『4年間働きづくめだったんだから眠ってるのよ』と答えたいくらい!」

 

──
「2年前だったら違う作品になっていた」というのは、あなたを取り巻く環境がこの2年で大きく変化したということですよね?
「ええ、そうね。映画を作ることによって色々なことを学んだけれど、一番は自分自身の気質についてよく分かった気がするわ。映画制作のプロセスは、時には孤立を感じたり自分の弱さを認識したりするとてもハードなもので、まるでゾウ用の銃で撃たれたような精神状態に陥ることもあったり……、そういった経験を経て自分が成熟したことが、作品の大きな糧になっているんじゃないかしら」
──
主人公のノラはご自分を投影したキャラクターですよね?
「うーん、そうじゃないといいんだけど(笑)」

──
(笑)。実際、ノラとあなたには色々な共通点があるように見えますが…。
「そうね、むしろノラはかつての私なんじゃないかしら。彼女を描くことによって私の過去の痛みや喪失感を洗い流すことが出来たかもしれないわ。もちろん私が作り出したキャラクターだから、確かに私の一部ではあるのだけれど、演じてくれたパーカー・ポージーが、彼女なりにノラの感情を消化して表現してくれたプロセスが素晴らしかったの。自分の作品を自分自身だと宣言するのは少々エゴイスティックにも感じるから、私自身というより、私のフィーリングを反映した映画というくらいにしておくわ」
──
具体的には、あなた自身もフランス人の男性と結婚されたわけですが、そのストーリーがベースになっているのでは…と思っていました。
「いいえ、脚本は彼に出会う前に書いていたので、実際に彼に会ってからの成り行きにはまったくびっくりしたわ! 以前からフランスは大好きでよく行っていたし、私がフランス人の男性と結婚すること自体には不思議はなかったんだけどね。それでも自分の書いた脚本に似た出来事が自分自身に起こったんだから、次回は主人公に宝くじが当たるストーリーでも書いてみようかしら(笑)」