Broken English
ゾエ・カサヴェテス、
『ブロークン・イングリッシュ』を語る。
08 12/22 UP
Text&Photo:Shoichi Kajino
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- (笑)そうだったのですね。実際のパートナーとの生活で感じたニューヨーカーとフランス人のミス・コミュニケーションや恋愛観の差が今回の描写に落とし込まれているように感じました。
- 「ええ、フランス人はとてもロマンティックで、そういう点は好きよ。でも主人公のノラにとってはちょっとロマンティックすぎたかもしれないわね。でも彼の登場が彼女の人生にユーモアをもたらしてくれるの。私が夫と知り合った頃、実際に経験したのは、彼が何かについて熱心に話しているんだけれど、それがいったい食べ物の話なのか何の話をしているのかさえ分からなかったことあったの。数日経って、さてあれは何の話だったの…なんて思い返すこともしばしばで。まるで決して分かり合えないままのコメディのような会話が行われていたわ。でもお互いが理解できなかったとしても、しようとする努力は大切だと思うわ。そこから何かしらのつながりが生まれるものだから」
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- フランス人は世界的に見ても、その性格からユニークな存在だと思います。ニューヨーカーのあなたから見ると具体的にはどんなところが面白く感じましたか?
- 「フランス人の好きなところ……、そうね、『ぜひ家に遊びに来て、もしよければ長くいたっていいのよ。あなたのことはよく知らないけれど』という感覚かしら。アメリカ人には本音と建前があるから、もしそう言ったとしても、そうはいかないわ。それからフランス人はニューヨークのことが頭から離れないと思うの。逆に多くのアメリカ人にとってパリは憧れの街ね。私にとってパリはワインと食事と官能の美しい街という印象があって、彼らにとってニューヨークはきっと活動的でエキサイティングな街であって、お互い惹かれ合っているように感じるわ。フランス人は無礼で感じが悪いイメージがあるけれど、結局彼らはとても率直なんだと思う。『あなたのセーターは好きじゃないけど、もっと違う色ならいいんじゃないかしら』だとか言える感覚、そういった違いはすごく面白くて、嫌な思いはしていないけれど……いや、やっぱり少しは気になるわね(笑)」
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- 映画を作るにあたっては、やはりお父さんのジョン・カサヴェテスの影響は大きかったと思うのですが、自分では具体的にはどんなところに作用していると思いますか?
- 「映画を作ることだけで必死だったから、父のことはまったく考えなかったわ(笑)。もちろん私の人生は両親の作品から影響を受けていて、彼らは家で撮影したりもしていたから、その影響は避けることはできなかったの。両親のおかげで映画やアートを好きになったし、それは私だけでなく兄と姉の仕事にも影響しているわ。映画を作っている時には全く意識していなかったんだけれど、私は誠実さや痛みと真実といったテーマが好きで、そこにも近いものはあるのかもしれない。それから父の自由なフレーミングやカメラワークが好きだったわ。でもこの作品への直接的な影響となるとどうかしら……」
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- あなたの作品も、叙情的というよりは会話によってストーリーが展開するという印象を持ったのですが?
- 「初めて映画を作る時には、自分が何が好きで、どう撮りたいのかというアイデアはあっても、自分のスタイルなんてまだ分からないものよ。ただ、私はダイアローグを書くのが好きで、むしろ『屋外の通りにピンクの光が…』なんていう類いの描写をするのは退屈で、仕事の中で好きな部分とは言えないわ。そうね、会話が主体の脚本を書くという自覚はあるので、それが私のスタイルなのかしらね」
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- あなたはよくお話する方なので、多弁な映画を撮るのは分かりますが、不思議なのは、フランス人は普段あんなによく喋るのに、寡黙な映画を撮ったりしますよね。
- 「そういえば、私の夫が映画のために音楽を手がけてくれたんだけど、『台詞が多くて音を乗せられないからちょっとスペースを空けてくれない?』と言われたわ(笑)」
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- 旦那さんとのコラボレーションはどのように進んだのですか?
- 「私の旦那はスクラッチ・マッシヴというユニットのミュージシャン。私はニューヨークで映画を編集していて、彼はパリにいたから、メールでデータを送ってもらいながら進めたの。“初めて”のいいところは、正しい手順を知らないことね。彼の作ってくれた音楽にはとても満足しているわ。結婚相手と仕事をするにはいい面と悪い面があると思うんだけど、意見が食い違っても、笑いながら話し合えて言い争いにはならなかったし、幸い二人の関係にヒビが入ることもなかったわ(笑)」