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THINK PIECE

GONZALES

ネガティヴなエネルギーの蓄積が生んだ“ソフト・パワー”真の奇才、
ゴンザレスのポップ・ミュージック

08 5/9 UP

Text&Photo:Shoichi Kajino

ファイストの成功の影で身を潜めていた奇才、プロデューサーのゴンザレス。2004年のピアノ作品集『Solo Piano』でその名を広く知られるようになった彼だが、その後、ジェーン・バーキン、ファイスト、カトリーヌ、テキ・ラテックス…すべてのアルバムの影でプロデューサーとして柱を支え、そのゴンザレス・タッチともいえる爪痕を残しつつもアーティストとしては沈黙を守っていた。いよいよ待望のニュー・アルバムが完成したという噂を聞いて、パリ、モンマルトルの丘のふもと、彼のアパルトマンを訪ねた。アルバム完成後、世界で最初のインタヴューとなったこのセッションでは、彼の中に蓄積された「ネガティヴ」なパワーを放電するように語り続けてくれた。さあ、眠れる怪物ゴンザレスが今再びスポットを浴びる時がやってきたようだ。

──
いよいよゴンザレス・イズ・バックという感じですね。前作『Solo Piano』の成功によって多くの新しいリスナーを得たと思いますが、もともとこの『Solo Piano』はサイド・プロジェクトという意味合いが強かったのでしょうか?
GONZALES (以下: G )
「確かに『Solo Piano』は僕のキャリアの中で最も成功したアルバムになった。ただ僕にとっては、これまでのすべてのアルバムがメインでありサイドでもあるような感覚がある。ファーストはほとんどインストゥルメンタルのロマンティックなエレクトロニカという感じ。ところがセカンド・アルバムで突然トラッシーになって、僕はラッパーになった。そしてピアノのソロ。でもこれらはすべてゴンザレスなんだ」
──
ということは、すべてはあなたの中で連続的であるわけですね。
G :
「そうだね。すべてのアルバムごとに新たなゴンザレスの側面がでているにすぎないんだ。その『Solo Piano』がリリースされたときにある人はこう言った。『おお、ユーモアもヴォーカルもない。これこそが“本当の”ゴンザレスの姿だ』と。そんなバカなことはないよね。あれが“本当の”ゴンザレスでもないし、サイド・プロジェクトというわけでもない。僕はすべてのアルバムごとに新しいマスクが必要なんだ」
──
では今回の新しいマスクというのは?
G :
「この5年間というもの、僕は他人のプロデュースに時間を費やしてきた。ジェーン・バーキンやファイストというようなメイン・ストリームのアーティストのプロデュースの過程で、僕は常に疎外感を感じたんだ。僕、ゴンザレスはひとりのアーティストだ──あまりメイン・ストリームでは通用していないけれど――。その疎外感で僕はネガティヴなエネルギーを蓄積した。ドアはロックされていた。そのドアを叩き破るためのエネルギーというのが僕の原動力だったんだ。それがある日、突然ドアが開いてしまった。さあ、どうしよう? 僕は混乱したよ。それまでの僕の唯一の存在理由がなくなったわけだからね。『ああ、ゴンザレス、知ってるよ。彼のプロダクションは大好きだ』なんて調子のいいことを言われたり、あるいは『Solo Piano』を聴いたファンは、ゴンザレスは“ナイス”で“ソフト”だと誤解をしたんだ。でも忘れちゃいけないよ。僕、ジェイソン・バックリンは全く正反対のパーソナリティの持ち主だ。常に戦いに挑み続けているんだ。音楽は「ソフト」だけど、僕自身が「ソフト」というわけではない。新しいアルバムの『ソフト・パワー』というタイトルはそういう意味も含んでいる。今でも僕はパワーを求めているし、今でも音楽は戦いだと思っている。くだらないミュージシャンたちとの戦い──僕はほとんどすべてのものが嫌いなんだよ」