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THINK PIECE

JEAN TOUITOU: A.P.C. KITA-AOYAMA

ジャン・トゥイトゥが見据える、A.P.C. の現在、そして東京

08 10/10 UP

Text&Photo:Shoichi Kajino

7月31日、A.P.C.の新しいブティックが北青山にオープンした。
Wanderwall 片山正通をインテリア・デザイナーに迎え、バンガローをイメージしたという「A.P.C. KITA-AOYAMA」。
オープニング・レセプションではデザイナーのジャン・トゥイトゥが猪野秀史らととも結成したバンドで登場。
自らがギターを弾き、歌声を披露し、なんともフレンドリーな夜となった。
なんでもそのギターは藤原ヒロシが用意してくれたのだという。
東京の友人たちに囲まれ終始ご機嫌のジャン・トゥイトゥに話を聞いた。

 

──
今回は新しいブティックのお披露目ということでしたが、パーティはどうでした?
「まるでホーム・パーティのような気取らない夜になって、とても楽しめました。いわゆるパーティに招待者はビジネスをするために来るでしょう? 名刺を交換してペチャクチャとウワベの会話をして…。そういった類のものではなかったことは救いですね」
──
あなたのライヴもありましたし、ご自身でも楽しめたのではないでしょうか。
「今回僕は猪野さんといっしょに演奏するのを不安に感じていたんです。彼の演奏はいつでも美しすぎて、知らない間に僕の意識はどこか遠くへ行ってしまうのです。あまりに彼の音に入り込みすぎてしまうんですね。ベースを弾いてくれたルリさんのバックヴォーカルも美しくて、ライヴ中に何度も意識が自分がやらなきゃいけない演奏から離れてしまうような感覚に陥りました。そんな2人の日本人を迎えたこの"セックス・ビートルズ"を僕は楽しみました。まあ、このバンド名を口にしたときの観客はまったく無反応でしたけどね…(苦笑)」
──
バンドのリハーサルもままならなかったそうですね。
「成田に着いたのが18時頃で、ホテルに20時に着いたかと思えば、20時20分にはもう大切なミーティングに呼び出されました。それから食事をして結局リハーサルを始められたのは深夜の24時でした…。しかもリハーサル・スタジオのあの真っ白な蛍光灯はまったく気分が落ち込むし、機材の音は良くないし…といった具合だったんです」
──
どうやってこのバンドを構成したのですか?
「最初は一人で演奏しようかと思っていました。でも、それではあまりに自惚れが過ぎるような気がして、猪野さんを誘ったのです。その次には“女性的な”要素がないのをさみしく思って、僕のアシスタントであるマリオン──彼女はミュージシャンでキーボーディストでもあります──にNICOを彷彿させる雰囲気でタンバリンをたたいてもらうことにしました。ルリさんに関してはちょうど少し前、彼女がパリに来てアトリエを訪ねてくれたとき、僕はひとりスタジオに入っていたんです。彼女はかつてベースを弾いていたという話を聞いていましたので、その場で軽いセッションをしました。そして彼女もこのバンドに必要だとひらめいたのです。すべてはとてもイージーに決まりました」

 

──
今回この北青山にブティックを開くことになったのはどうしてでしょう?
「新しいショップの場所として青山を検討したのは、友人でもあり信頼出来るパリの日本人スタッフのアドバイスによるものです。いくつかのブティックはあまり機能していないことを知っていましたから…そこを閉じて新しい場所を探す方が賢明と考えたのです」
──
それは例えば、丸の内店ということでしょうか?
「(苦笑)…ええ、そのとおりです。今年の1月に来日したときに青山〜表参道を歩きました。ただこの地域の表通りはいわゆる90年代のファッション・ブランドで溢れています。それで表通りを少し入った通りに目がいったのですが、そこにはいくつかの感じの良い小さなお店やバー、そして私たちのPRを担当してくれる会社もあったんです。僕の直感的な嗅覚がクンクンと働きました。そしてまだ空いていたスペースを見つけたわけです。僕は妻のジュディットとインテリア・デザインの片山さんをその場に呼んで、すぐに決めたのです」
──
かねてより、モードの世界の中でのA.P.C.の立ち位置について、あなたは非常にこだわりを持っていますね。いわゆるビッグ・メゾンによるモードの世界と慎重な距離感を保っていきたいという旨のお話をかつて何度かうかがいました。その上で、この場所はあなたのA.P.C.にぴったりのように感じました。表参道・南青山にはビッグ・メゾンが軒を連ねています。そこから適度な距離をおいた北青山の一角というのは、象徴的な意味だけでなく、やはり物理的にも理想だったのではないでしょうか?
「はい。私もまさにそう感じています」