JEAN TOUITOU: A.P.C. KITA-AOYAMA
ジャン・トゥイトゥが見据える、A.P.C. の現在、そして東京
08 10/10 UP
Text&Photo:Shoichi Kajino
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- 片山氏とのお仕事は、昨年の代官山のHOMMEのブティック以来2回目ですね。
- 「ええ。ただし、ある意味では今回が初めてとも言えます。オムのショップはゼロからではなく、それまであった基礎を利用した上でのリコンストラクションでしたからね。片山さんには猪野さんと同じ種類のフィーリングを感じるのです。言葉ではうまく説明出来そうにありませんが──つまり、彼らにはまるで兄弟のような信頼感を持てるのです。僕らは同じような20世紀の建築書を読んでいましたし、同じようなカルチャーを共有し、共通のリファレンスを持っていました。ある夜、僕らはディナーの席でこの青山のブティックの話をしていたのですが、そこで彼は手元にあった白い紙きれの上にササッとデッサンをしたのです。それで完了です。時に人生は複雑ですが、時に人生はとてもシンプルなものです」
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- もし正しい人を選べば、ですね。
- 「そのとおり。カギと一緒です。ドアを開けるには正しいカギが必要です。そうでなければ、たたき壊すしかない…。それは猪野さんたちとのバンドにもいえることです」
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- 今回のショップ・デザインのポイントはどの辺りにあるのでしょう?
- 「今回、片山さんはすべての素材をマットに加工して、意図的に新しい感触を消しています。メタルも木材も、ある種のヴィンテージ風の加工を施しています。それから、やはりあの大きなカウンターでしょうね」
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- まるでキッチンのようですね?
- 「その通り。実はあれは僕の家のキッチンのカウンターから発想しているんです。彼を家に招いて僕がキッチンで料理を振る舞ったのですが、彼はそのカウンターを再現してくれたんです」
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- 昨年のパリのブティックの移転や改装に続いて、先頃サンマルタン運河の方にも新しいブティックを作られたそうですね。それから意外とも思える18区にもサープラスのブティックを出されるとうかがいましたが、今、A.P.C.はちょうど再編成の作業にかかっているということなのでしょうか?
- 「聞いて下さい。これは秘密にするわけではないので、話しておきましましょう。現在、"産業"はとても深刻な危機に直面しています。幸運なことにそんな中においても僕たちの会社の業績は右上がりのいいフィギュアを描いてくれています。ああ、これはあまりポエティックな表現では表せませんが、ドルと円の急落によって、僕の会社、すなわち僕自身は一年間に何百万ユーロ──具体的な数字はよして、高級な邸宅が買えるほどの金額としておきましょう──のお金を燃やしているのも同然なのです。失ってばかりはいられません。車を売って、アパートを売って、別荘を売って、靴を売って…そうならないためには事業を広げて、失うに十分なほどを稼がなくてはいけなかったのです。根本にかえって、僕のパーソナリティを考えてみると、僕は単純に幸せな生活がしたいだけです。家庭があって、仕事場があって、本を読んで、友人をディナーに招いて…それでいいのです。有名な誰かのような存在になりたかったわけでもありません。ただこの経済の状況の下では自転車と同じです。こぎ続けないと止まって倒れてしまう。パリの2つのブティック、そしてこの北青山に続いて、9月にはコペンハーゲンにも新しいブティックをオープンしますし、来年の1月には南フランスのトゥールーズに、3月にはサンフランシスコにも新しいブティックを計画中です。僕は不満をこぼしているわけではありません。雨が降り出したらどうしようもない、止むまでは待つしかないでしょう」
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- そのコペンハーゲンのブティックには、また面白いコンセプトがあるそうですね?
- 「いい場所を見つけたのですが、広すぎたので2つに分けました。その2/3は普通のA.P.C. ブティックで、残りの1/3はA.P.C.のヴィンテージ・デザイン・ショップにしました。60年代のデンマークのデザイン家具を、毎月3点のみをディスプレイして販売するのです。デンマークは北欧と並んでデザインに優れた国です。自然と密接で日常の『アート・オブ・ライフ』を知っている国民性があります。空港からすでにそのデザイン・センスは発揮されています。アルネ・ヤコブセンの椅子が並んでいるし、彼がデザインを手がけたビーチさえあるのですから」