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THINK PIECE

『TOKYO!』

レオス・カラックスが映画『TOKYO!〈メルド〉』で描く現代の闇

08 8/25 UP

Text:Mayumi Horiguchi Photo:Shoichi Kajino

東京を舞台にしたオムニバス映画『TOKYO!』のプロモーションのために、レオス・カラックス監督が来日した。
文系男女の心をわしづかみにした“アレックス3部作”と99年の発表作『ポーラX』を合わせ、
計4本しか長編作品を発表していない寡作の映画作家。
そんな彼が、9年間の沈黙を破り、新作を発表した。
ビデオカメラで撮影された中篇映画『TOKYO!〈メルド〉』がそれだ。
フランス語で“糞”を意味する題名を持つこの映画にて、カラックスが描こうとしたものとは?!

© 2008『TOKYO!』

現代の東京を舞台に、三人の外国人映画監督がメガホンをとったオムニバス映画、それが映画『TOKYO!』だ。その三人とは、ミシェル・ゴンドリー(『恋愛睡眠のすすめ』『エターナル・サンシャイン』)、ポン・ジュノ(『グエムル 漢江の怪物』『殺人の追憶』)、そしてなんと! レオス・カラックスである。

三人は、全員、国際的な成功を収めている映画作家で、世界中が、その個性的な映像世界に魅了されているという点では同じだ。が、ゴンドリーとジュノが、今、まさに精力的に映画を撮り続けている「旬」な存在であるのに反し、カラックスは、早すぎる「隠遁生活」を送っていた。「このまま過去の人になるのか?」と、正直思ったこともあるぐらいだ。が、そんな彼が、9年ぶりに映画を完成させた。それが、この最新作『TOKYO!〈メルド〉』である。

マンホールから地上に突如現れる謎の怪人メルドが、奇怪な行動を繰り返し、東京を混乱の渦に陥れた挙げ句、捜査当局に拘束され、ついには裁判にかけられて……という内容だ。クオリティ的には、正直、今までのカラックス作品にはおよばない。が、カラックス自身が「メルドは僕だ」と語っていることを裏付けるかのごとく、今作には、かつてないほど「彼自身」が詰まっている。そんな彼の「思想」や「哲学」を少しでも掴もうと、色々聞いてみた。目の前に佇むカラックスは、予想とは異なり、我の強さをあまり感じさせない、穏やかそうな人物だった。しかし、やはり「ただものではない」オーラを発してはいた。

まず、今作が今までのカラックス作品と異なる点のひとつとして、これは35ミリで撮られたものではなく、ビデオカメラを使って撮影された、初の作品だということが挙げられる。

「出来るだけのことはしたよ。今回は、撮影場所も不慣れな外国だし、低予算だし、時間的にも短時間で撮影を終えなければならなかったからね。35ミリでの撮影は、カネもかかるし、工程も複雑なんだよ。映画の中で使う音楽と同じだね。作曲家をよく知ってないとダメなんだ。イメージも同様さ。今回の撮影監督であるキャロリーヌ・シャンプティエも、撮影以前は知り合いではなかったし。だから、とにかくすばやく撮影を済ませる必要があったんだ。今回使ったビデオカメラは、とてもシンプルで、扱いやすかったよ。昼間に銀座で撮影する時なんかには、あんまり合わないなと思ったりもしたけれど、地下や刑務所といった、暗い場所を撮影するのには良かったね」

© 2008『TOKYO!』