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THINK PIECE

Simian Mobile Disco×大沢伸一

Electro is dead?!ダンスミュージックの行方

08 7/22 UP

Text:Tetsuya Suzuki Photo:Kentaro Matsumoto

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シーンの現状をお話しいただきましたが、そもそもエレクトロというムーブメントは、明確なカテゴライズがないまま、色々なアーティストが一括りにされているように思います。大沢さんもSMDも、確かにそのシーンの中心にいるわけですが、同時にアーティストとしての本質はエレクトロ、という言葉では括りきれないと思います。
O :
「彼らにしてもそうだと思いますが、DJの際、エレクトロのトラックだけをプレイするわけではないんです。僕の場合、エレクトロの新譜は全体の20%くらいで、過去の曲をリエディットすることも多いんですね。クラブでの鳴りが現代的なだけであって、エレクトロのアーティストがいっぱいいるというのは錯覚だと思うんです。そういう意味で、このシーンはあってないというか、 DJが各々の現場で作っているシーンだとも言えるんじゃないでしょうか」
JF :
「今のシーンを作った一因として、テクノロジーの急激な進化があると思います。ダンスミュージック、特にエレクトロは言ってみれば民主化の犠牲になっている。クリエイターにしか曲が作れないのではなく、ラップトップとプロツールさえあれば、誰にでもベッドルームで簡単にできてしまう。それはいい事でもあり、悪い事でもあると思うんです。いい部分は幅広く門戸を開くというか、そういう意味ではパンクとも言えるかもしれません。僕たちのMyspaceには、数多くの『SMDのトラックをリミックスしたから聴いてみてコメントをください』というメッセージが届きます。リスナーとクリエイターとのグレーゾーンが非常に大きくなってきていますね」
JS :
「ただ同時に、音楽性は欠落してしまっているのかもしれないとも思います。例えばソフトウェアの“ハウス”というボタンをクリックすれば、ハウスっぽい音はなんとなく作れてしまうし、曲の骨格の70%くらいはできるんです。でもそこには、光るもの、個性、大事なディテールがない。機材を操るための学習にはいいかもしれないけれど、曲を書く上では何かが足りないと思うんです。僕たちが若きトラックメイカーに薦めたいのは、ドラムマシーンとテープレコーダーとシンセサイザーだけで音楽を作ること。まずメロディを重視すべきだと思います」

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最近のクリエイターには、音楽の“経験値”が欠落しているのでしょうか?
O :
「曲を作る=リズムを作る、と勘違いされているのか、セットアップされたものの中でしか表現ができなくなってしまっていますね。『プリセットは使わない』くらいのつもりでやらないと、自分のスタイルにはならないんじゃないでしょうか。独自の音楽が生まれにくい状況になっていると思います」
JF :
「機材に関して僕たちは、敢えてプリセットの存在しない昔のアナログ・マシーンを選ぶなど、意識的になるように心がけています。誰かが作ったセットアップの音を使いたくはないし、アルバムを作る時も特定のテクノロジーによって流れが左右されるので、よく考えて選ぶべきだと思っているんです」
O :
「音選びからクリエーションが始まるといっても過言ではないですからね」
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アナログの機材といえば、SMDのライヴステージは巨大なモジュラーシンセの周りをダイナミックに動き回る、かなりインパクトのあるセットが印象的ですね。
JF :
「ライヴでは自分たちの音楽ができるまでの過程を再現しているつもりなんです。録音済みの音を流すこともできるのですが、それらの機材を使うことで、既にあるものをプレイバックするのでなく、その場で音を組み立てているつもりです」
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大沢さんもDJセットを持ち込むなど、ご自分なりの音やパフォーマンスにこだわられていますが、その点から見てSMDのライヴをどう思いますか?
O :
「ラップトップ一つでライヴをやる人も多いですよね。でもオーディエンスからしたらステージで何が起こっているのかよくわからないし、それだったらDJ をやったほうがいいんじゃないかと思うんです。彼らがやっていることは、かつてシンセサイザーやドラムマシーンが出てきた頃のライヴそのものだと思うし、そんなバンドは今世界中を探しても彼らしかいないと思うので、尊敬できますね」