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THINK PIECE

PART OF THE WEEKEND NEVER DIES

SOULWAXのワールドツアーを追った
ドキュメンタリーDVDが発売

08 12/10 UP

Portrait:Shoichi Kajino Text:Misho Matsue

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3年かけて120都市を回るという文字通りのワールドツアーを終えて、印象的な場所はありましたか?
「滞在すること自体が楽しい国はもちろんいくつかあって、日本やオーストラリアもその一つなんだけど、クラブでライブやDJをするという意味においては、東京もドルトムントもブリスベンもシカゴも奇妙なくらいに同じように感じたんだ。もしかしたらサウンドの環境も影響しているのかもしれないけどね」
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どの場所も似たような印象を持ったのであればなおさら、長期に渡る超人的なスケジュールにうんざりすることもあったのではないでしょうか?
「そうだね。人生にはバランスが必要だから。もちろんオーディエンスと自分たちの音楽を共有できるのは素晴らしいと思うんだけど、ツアーばかりの生活において最もフラストレーションを感じるのは、クリエイトできないことなんだ。アーティストとしては作り続けることで成長する部分があると思うんだけど、プレイしているだけでは楽しい時間は過ごせても、いつかは自分が空になってしまうんじゃないかという危機感があったね。ビデオを回していた頃にはそんなふうにも感じたんだけれど、今はバランスが取れているんじゃないかな」
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DVDには「ツアーは好きじゃない……」というあなたの発言もありましたね。
「あの時は、6週間のうち5週間はツアーというハードスケジュールだったんだ。残された1週間で大慌てでリミックスをしたり身の回りのことをしたり、という状況で精神的にもかなり良くなかったと思う。今はトラックを作る十分な時間を確保しつつツアーできているから、いい感じだよ」

 

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長いことツアーに出ていると仕事中はもちろん、食事やホテルなど四六時中メンバーと顔を合わせることになると思うのですが、お兄さんのステファン(Stephen)とあなたの関係はそれ以前と変わりましたか? SOULWAXだけでなく2 many dj'sとしての活動もありますし、こんなに長い時間を共有している兄弟はなかなかいませんよね。
「活動を始めたのが90年代半ばだから、ステフとは12年くらい一緒に過ごしているんだれど、2年前と今でさえ関係性は違うんだから当然だね。彼は僕より5つ上なんだけど、僕が16歳でメンバーのステファン(Stefaan)を含む友だちとバンドを組んだ時にはステフはもう大学生だったし、その頃の5歳の差は大きいよね。とはいえステフとは昔から音楽の趣味がすごく合ったんだ。自分自身をよく知るほどに衝突は避けられるようになっているし、今はすごくいい関係だと思うよ」
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DVDの中でジェームズ・マーフィーが「DJを始める前にはパンク・バンドで修行したほうがいい」だとか、「今やDJは楽に稼げるボロい仕事になってしまった」など、ユーモアまじりに毒のあるコメントをしていますよね。これについてはどう思いますか?
「日本のイベンターは楽に稼がせてはくれないと思うんだけど(笑)。とにかくあの発言はすごくいい例えだし、面白かったから採用したんだ。僕たちと同じように、ソングライティング、プロダクション、ビデオ、DJなどあらゆる角度から音楽に関わっている彼だからこそ言えるんじゃないかな。今、DJをめぐる状況としては、多くの人の関心さえひけば自分の好きな音楽をかけるだけでお金につながるという、SF映画のように"逆回し"の構造になっているよね。本質的にはジェームズのように、音楽的にも経済的にも影響を与えうる存在でなければ彼と同じレベルにはないと思うんだけど、それでも未だにDJの"神話"を信じている人もいる。この奇妙な状況を面白おかしく言い表せるのは、ジェームズの視野の広さを物語っていると思うよ」