honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

THINK PIECE

t-Ace

和製ヒップホップの新旗手、
t-Aceが語る "Real Hip Hop"

08 9/29 UP

Text:honeyee.com Photo:Kentaro Matsumoto

──
日本語でラップをするにあたって影響を受けたアーティストがいれば教えて下さい。
「日本語ラップに関して言えば、(MICROPHONE)PAGERやBUDDHA BRANDをはじめて目の当たりにした時は衝撃を受けましたね。あと最近は、般若のような同世代のリリシスト。上の世代の人達よりも、そういう同世代のアーティストのリリックに強く共感を覚えますね。海外のアーティストだと、僕の地元の水戸では、D.I.T.Cのような90年代に活躍したニュースクールのアーティストが人気で、勿論僕も好きですけど、一番好きなのはJAY-Z、NAS、BIGGIEですかね」
──
t-Aceさんより上の世代の人達にとってのヒップホップカルチャーは、そこに身を置くにあたって「後戻り出来なくなる」といった、それはかつてのロックにもありましたけど、そういったある種の覚悟が必要なものだったと思うのですが、ヒップホップミュージック、カルチャーが既に身近にあったt-Aceさん達の世代にとってDJやラップをすることは自然なことでしたか。
「確かに僕らの世代はヒップホップが当然のようにあった世代だから、DJやラップをすることは自然なことでしたよ。ただ、若い時から水戸のLUNCH TIME SPEAXや、MUROさん、DEV LARGEさんとか、日本のシーンを開拓してきた人達を傍で見てきたから、上の世代の人達の努力は理解しているつもりだし、彼等が築いてきたシーンを僕等が引き継いでいきたい、という思いはありますね」
──
自身で日本のシーンをリードしていきたいとか、海外で活動していきたいという気持ちはありますか。
「やっぱり日本語ラップを聴いて育ってきたから、まずは日本語ラップの可能性を追求していければと。今の日本語ラップは勝手に小さくまとまっている感じがするんですよ。だから色々な表現の可能性を追求していきたいですね。ブリンブリンなジュエリーがどうのこうのだとか、車のホイールが何インチあるとか、女がどうのこうのとか、そういうこと以外にもラップで伝えられることはいっぱいあると思うから」

 

──
自身のバックボーンから生み出されるストーリー性のある曲作りというのは、今後も続けていくつもりですか。
「そうですね。自分の好きなアーティストの曲もそういうものが多いですから。『孤高の華01』はそういう曲で構成されていますけど、実は10月にリリースされる『孤高の華02』に収録される曲は、01とストーリーがつながっていて。01と02の両方が揃うことで、はじめてファーストアルバムとして完成するんです」
──
自身のバックボーンをストレートに曲に落とし込む。そのスタイルは「リアル」と呼べますよね。
「嘘ばかりのリリックを書く人がいるじゃないですか。そういうのは格好悪いんで」
──
ただ、曲がドープになり過ぎて聴く側に伝わらなくても駄目だし、かといってキャッチーでライトなものがいいかというと、そうではない。丁度良いバランスの曲を出せるアーティストは、海外でも日本でも、なかなかいませんよね。
「確かにそうですね。音楽が日々刻々と進化する中で、アーティストの方向性はどうしてもブレますし。BIGGIEやJAY-Zのようにメジャーとアンダーグラウンドの間で上手く立ち回って、両方からのプロップスを得るのは難しいと思いますけど、そういったことが重要なんだと思いますね」
──
10月にリリースされる新作でも、前作に続き、決して良いとは言えなかった自身の環境がリアルに表現された曲がありますよね。普通、ヒップホップアーティスト、殊ハードコアな人達は厳しい環境で生きてきた時の「強さ」を強調しますが、『Dead The Past』にみられるように、t-Aceさんは正直に自身の「弱さ」を認めながら、ポジティブなメッセージを発しますよね。そのようなスタイルはどのように形成されたのでしょうか?
「それは実際に自分が弱い人間だからなんですよ。自分は強い人間だ、と思うよりも、弱いな、と思うことの方が多い。だから、『弱い人間だからこそ、自分はこう考える』ということがポジティブなメッセージになっているんだと思います」