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I'M NOT THERE

トッド・ヘインズ監督自身が語る
映画「アイム・ノット・ゼア」に込めた想い。

08 5/1 UP

Text:Mayumi Horiguchi

トッド・ヘインズ──ゲイであることを公言し、マイノリティやアウトサイダーに焦点をあて、斬新な表現方法で現代アメリカ社会を描き続けている映画監督だ。そんな彼が、ロックンロール史に燦然と輝くカリスマ・ミュージシャンであるボブ・ディランを「映画化」した。が、それは当然のごとく、ありきたりな“ ミュージシャンの伝記映画”からはかけ離れたものだった!!  ヘインズ監督が語る、映画『アイム・ノット・ゼア』での試みと、そこに込めた想いとは……。

Todd Haynes / トッド・ヘインズ

1961年、ロサンゼルス生まれ。1991年『ポイズン』で長篇監督デビュー。
代表作に『ヴェルヴェット・ゴールドマイン』(98年)、『エデンより彼方に』(02年)など。

 

ボブ・ディランは、まさに“生ける伝説”である。66歳にしていまだ現役で、年間100本以上の「ネバー・エンディング・ツアー」を続け、詩人としては 10年間ノーベル文学賞の候補に挙がっている。20世紀のアメリカが生んだ、最も偉大なミュージシャンのひとりだ。そんな人物のイメージを簡潔に言い表すことは不可能だし、また、謎の部分も多い。ヘインズは、こういった難点をまるで逆手に取るかのように、新たな試みに挑戦した。6人の俳優に、7通りのボブ・ディランを演じさせたのである。
トッド・ヘインズ (以下: T )
「この映画は、異なる人物たちが、それぞれ別の時代のディランを演じるという形になっているんだ。彼らは、名前すらディランではない。それぞれが、架空の名前を持っているんだ」
詩人‘アルチュール’を演じるベン・ウィショー、放浪者‘ウディ’を演じるマーカス・カール・フランクリン、プロテスト・フォークシンガーの‘ジャック’ とゴスペルを歌う‘ジョン牧師’のひとり二役を演じるクリスチャン・ベイル、映画スター‘ロビー’を演じるヒース・レジャー、ロック・スター‘ジュード’ を演じるケイト・ブランシェット、西部開拓時代のアウトロー‘ビリー’を演じるリチャード・ギア。この6人は、年齢も人種も、性別すらもバラバラである。
T :
「僕の映画は、いわゆる伝統的な伝記映画とは全然異なるものだ。個人的には、そういう映画を楽しんで観ているし、嫌いじゃない。でも、ディランのような人物を映画化するのだから、何か違う方法を取るべきだと思ったのさ」
彼が初めてディランの音楽を聴いたのは、高校時代だという。
T :
「大好きだったよ。でもその後、ディランを聴くのは止めて、別のアーティストやジャンルの音楽を聴くようになったんだ。だけど最近……2002年ごろに、また聴き始めたんだ。ユニークなことに、あの曲とあの声を聴く必要性を、突然感じたのさ。年を取った僕は、ボブ・ディランという人物と彼の音楽を再発見することを、必須としたんだ。この映画は、自分に起こったこの変化の結果、生まれたと言えるね」