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THINK PIECE

I'M NOT THERE

トッド・ヘインズ監督自身が語る
映画「アイム・ノット・ゼア」に込めた想い。

08 5/1 UP

Text:Mayumi Horiguchi

レジャーは今年1月22日、28歳という若さで急逝したのだ。死因は合法薬物の過剰摂取。レジャーが演じた‘ロビー’は、ミュージシャンとして成功したディランが、映画に出演するようになった頃の「俳優としてのディラン」であり、彼の人生に大きな影響を与え、多数の歌詞のモデルにもなったと言われる“ふたりの女性”──スージー・ロトロ(63年の作品『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』のジャケットで、ディランに寄りかかっている女性)と、サラ(65 年〜77年にかけてディランと結婚していた元妻。二人は4人の子供をもうけた)──との恋愛関係を描いたシーンに登場する。ちなみに、同シーンにて妻役を演じているのは、シャルロット・ゲンズブールである。
T :
「ヒースとは、この映画を通じて、すごく親しくなっていたんだ。ヒースはこの映画のことを、すごく信じてくれた。契約上はプロモーション活動をする必要もたいしてなかったのに、“皆がこの映画を見るべきだから”って主張して、プロモーションも手伝ってくれて……。素晴らしい俳優であり、今後は映画監督を手掛けるプランもあったんだ。彼には未来があったのに……。彼の急逝は、僕にとっても本当に辛いことだよ」

レジャーは映画『ブロークバック・マウンテン』で共演したミシェル・ウィリアムズと婚約、2人の間には娘マチルダが産まれたが、結局二人は破局した。元パートナーであるウィリアムズも今作に出演している。彼女が演じたのは、ポップ・アートの巨匠、アンディ・ウォーホルのミューズであり、60年代のポップ・アイコンであったイーディー・セジウィックを彷彿させるキャラクターだ。いかにも60's! なファッション&メイクが、「華麗なるロックンロール・スター」時代のディランを描いた、ブランシェット演じる‘ジュード’のシーンを、華やかに盛り上げている。
T :
「あのシーンの舞台は、あえてロンドンに設定したんだ。ニューヨークにあるウォーホルの“ファクトリー”のような汚らしいイメージではなくて、ロンドンの方がぴったりくると思ったのさ。別の登場人物たちのシーンよりも、ドレス・アップしていて、綺麗で、トレンドを感じさせるものにした。派手なパーティー・シーンも入れたりしてね。ミシェルが劇中で着ているチェーン・ミラー・ドレスは、ジョン・ダンドゥが、わざわざ彼女のためにデザインしてくれた特注品だよ。このシーンの為に製作されたレアものさ。実はミシェルは、すごくナーバスになってたんだ。‘今まで、こんなイケてる女の子の役なんてやったことない! こんな役、私にやれるの?!’ってね。でも、彼女は見事にやってのけた。映画での彼女は、とっても美しくて、ラブリーだよ」

 

このシーンのみならず、別のシーンにも統一性を保たせるために、それぞれ60年代の映画スタイルを取り入れたそうだ。
T :
「‘ジュード’のシーンにはフェリーニ、‘ロビー’のシーンにはゴダール、‘ビリー’のシーンにはヒッピー・ウェスタンのスタイルを取り入れてみたよ」
こうした取り組みは功を成し、ヴェネチア国際映画祭で女優賞と審査員特別賞を受賞。またブランシェットは、第80回アカデミー賞の助演女優賞にもノミネートされた。そんな高評価を受けたにも関わらず、ヒース・レジャーの突然の死に、相当落ち込んでいたヘインズ。現在は、自宅のあるオレゴン州ポートランドで、心の傷を癒しているようだ。
ポートランドは、エコロジーに関心の高いロハスな街。多数のヒッピー、ミュージシャン、芸術家が住む、アーティスティックな都市として知られている。
T :
「ここは自然がいっぱいあって、素晴らしい土地だよ。LAやNYよりこじんまりとしているのが良いね。(映画監督の)ガス・ヴァン・サントもポートランド在住だから、一緒につるんで楽しくやってるよ(笑)」

 

『アイム・ノット・ゼア』(2007年、米)

監督・原案・脚本:トッド・ヘインズ

出演:ケイト・ブランシェット、ヒース・レジャー、クリスチャン・ベイル、リチャード・ギア、マーカス・カール・フランクリン、ベン・ウィショー、シャルロット・ゲンズブール、ジュリアン・ムーア、ミシェル・ウィリアムズほか

配給:ハピネット、デスペラード

4月26日より、渋谷・シネマライズ、
シネカノン有楽町2丁目ほかで全国公開中。

http://www.imnotthere.jp/

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