08 10/15 UP
Photo:Shoichi Kajino
2008年10月。NY発の金融不安による経済パニックは瞬く間に世界中に「感染」し、
世界大恐慌の到来を目前に感じる緊急事態の様相を呈している。
高城剛は、まさに「この時」が来ることを警告し続け、
「その先」にある大変革の時代の到来を「予言」してきた。
そして、今、眼前に広がる状況を見回し、高城はつぶやく。
「これから、本当の21世紀が始まる。本当のヤバい時代が始まる。もう後戻りはできない」
「最初にお話しをしますが、僕は経済の専門家ではありません。金融工学もなんとなくでしか理解していません。しかし、時代性や流行に敏感であることが求められるクリエイターです。逆説的ですが、このような金融危機を予測、理解できなければ、クリエイターとして失格です。このような時代に対して発言できなければ、アーティストやクリエイターの存在意味がありません。ピカソの『ゲルニカ』でもわかるように、クリエイティブやアートは、常に時代との密接な関係を持ってきました。また、社会が混とんとした時こそ、真のクリエイティブ、引いては、あたらしい考え方が求められるというのも歴史の教えです。これを前提に今日はお話しを続けたいと思います」
「現在の経済危機に対して僕がよく使う喩えなんですが、『世界はウィルス性の肺炎に感染しているけれど、日本の病気は胃潰瘍』なんです。病気の種類が実は違う。日本の場合、長年に渡ってジュクジュクやってた病気なんですね。たまに痛くなるが、急死はしません。そして、胃潰瘍は他人には感染しまぜんが、ウィルス性肺炎は胃潰瘍の患者にもうつるわけです。だから、日本はこれからからヤバいのです」
「このウィルス性肺炎は、すでに日本にもちょっとづつに感染していて、それが本格的に発症するのは、僕は来年、2009年だと思います。日本のメガバンクや生保、中金が買っているアメリカのボンドが完全な不良債権としてちゃんと露呈するのが3月の決算以降でしょう。しかも、日本の会計システムは不透明すぎるので、いつ破裂するか、誰にもわかりません。にもかかわらず、今、調子に乗って日本の金融会社が海外の金融会社をいろいろ買っているけれど、すべてではありませんが、ババ掴まされてるようなものだと思います。裏ワザで乗り切るかもしれませんが、ギャンブルにも程があります。二十年前の日本がバブル経済の時も、同じことをしていました」
「一部にある『日本は今の世界的な金融危機の被害が少ない』という意見、つまり世界が金融バブルで湧いていた時期に、日本は90年代のバブル崩壊の後処理として不良債権の処理を地道にやっていたから今回は比較的傷が少ない、というようなことは、絶対にない。だって、病気の種類が違うんだから。胃潰瘍のヤツが自分から肺炎に罹りにいってる、というのが僕から見た現在の日本の姿です。本当なら、その手の失敗した金融システムと手を切るチャンスだったのに、です。この先5年で、根本的にあらゆるシステムが変貌するのです。たとえ、今回乗り切れたとしても、世界経済の病巣は、まったく解決してない。というより、いままだ日本に体力があるうちに、あたらしいまったく別のシステムの提案を、日本から世界に向けてするべきなのです」
「直近の考えられるシナリオは4つでしょう。1つ目はアメリカがスゲー良くなって、日本もスゲー良くなる。2つ目はアメリカがスゲー良くなって、日本はダメ。これは最近までの傾向ですね。3つ目はアメリカがダメで、日本がスゲー良い。でも、これはあり得ない。あったとしても、日本人にとっては良いことが多いだろうから、問題にならない。4つ目、アメリカがダメで、日本もダメ。これはあり得る。どのみち、日本だけ良くなるってことはないから。日本が良くなっても全部アメリカが横取りしていきますからね」
「すなわち、この問題は経済の問題ではなく、政治の問題なのです。すなわち、アメリカと距離をおけるか、ってことですね。だから、昨今の金融問題とは別で、解決することは当分ありません。距離をおけたら、本当に面白い国家に日本はなれるんですけどね。もっとも、アメリカが良くなる可能性も当分無いでしょう。アメリカはメルトダウンが起こっていると思います。それは、金融に限ったことではありません。僕的にいうと、『アメリカ的自由』がメルトダウンしているのです。それは政治をみても明らかです。そしてアメリカとともに20世紀というシステムが終わろうとしている。今まさに21世紀初頭なわけですが、今ここ数年で完全に20世紀が終るんだと思います。21世紀がいままさにこれから始まろうとしている。19世紀がイギリスの時代であったように、20世紀とはアメリカの時代だったんです。それは戦争資本主義とギャンブル資本主義の時代。それが終わるんです。そして真の21世紀が始まる。乱暴に言えば、近年は民主主義より資本主義のようなものが、あらゆる局面で強かった。それが、逆転を起こすでしょう」
「そのこれからの民主主義とは、多くの人が一斉にフラットになるということではなく、SNSのような様々なコミュニティの乱立になると思われます。コアを持たない、という意味です。システム設計という考えも古いかもしれませんね。それは本当の“スーパーフラット”がはじまるということです。言うなれば“ウルトラフラット”。いままでの“スーパーフラット”はウソっぽいというか、勝ち組負け組と言う言葉で表わされるような社会の詭弁でした。もしくは、“ウルトラフラット”のための予告編のようなものだったと思います。いろいろなものが圧縮され、いままであった余分なもの、ウソの部分がなくなるんです。経済にしても実体経済だけが残る」
「いままでは、社会システムがクラウドコンピューティングというか、上の方が見えませんでした。そのクラウド=雲がなくなるでしょう。インターネットなんかもすべてではありませんが非実態の典型です。特にインターネット・ビジネスと呼ばれるものは、実態がないものが少なくありません。また、使用者としてネットに触れている時間が長いほど実際の社会から離れていく傾向は顕著です。結果、実体経済から離れていくわけで危険が高まります」
「最近、欧米の新聞のコラムでよく見るのは、今回の世界金融危機の原因は、世界がインターネットにつながったからだ、犯人はインターネットだ、という論調もあります。その真偽はさておき、核にしろ、テクノロジーは使い方を間違えると、人類にとって飛んでもないことになる、という教えは至極当然です。その意味からすると、人類はインターネットの使い方を間違えたと言えると思います。核と同じように、どこかで大きく修正する必要に迫られるでしょう。それはテレビにも同じことが言えます」