08 10/15 UP
Photo:Shoichi Kajino
「21世紀の最大の娯楽は"哲学"になるでしょう。これは僕は十年以上前から言っています。20世紀の最大の娯楽はテレビだったと思います。これがもう完全に終っている。百年に一度の世界動乱のさなか、我が国のトップニュースは、相撲です(笑)。産業としても、テレビは斜陽でしょう。広告も同じです。その産業から、早めに距離を置く必要があります。娯楽としてのインターネットも所詮は広告に頼ったテレビと同じモデルであるならば、その寿命は長くありません。実際、テレビと距離をおきはじめた人が増える一方、ネット離れも加速しています」
「ではこの大変な時代に生きる人々にとって何が最大の娯楽になるかと言えば、哲学しかないと僕は考えます。すなわち、平和な時代に育って生まれてはじめて自分と真剣に向き合うのです。我々はどこから来て、どこに進むのか。人間とは一体なんなのか。ここにいる私とは一体誰なのか。こうしたことを自問自答せざるを得ない時が来ると感じます。そこでいう哲学とはスピリチュアルや癒しといった温いものでもなく、インテリの言葉遊びでもなく、もっと激しく土着的なものになると思うのです。言ってみれば、哲学と宗教とアートが一緒になったようなもの。それが21世紀の娯楽になると思うし、そういったものが増えてくると思います。だからといって、精神世界のようなものが中心になるというのも、変な話。そうではない」
「しかし、確実に言えることがある。人々の価値観は、大きく変わらざるをえない。こんなことハニカムでいうのはなんだけど、シーズンごとに靴を買っていくような時代は変わらざるをえない、ということです。そして、哲学こそもっともお金がかからない娯楽です。そこがお金がかかる宗教や宗教的ともいえるビジネスとは違うのです」
「さらに多極化、多様化が進むであろう世界ではひとつの場所にすべてがあるというようなことは無くなるとも思うんです。今までは東京には世界中のものが何でも手に入ると言われていて、実際そういう部分もあったと思います。けれど、これからはいろいろな場所に必要なモノを取りにいかなければならなくなる。あるいは移動し続けることによって生活を確保する。そんな時代が来るでしょう。一カ所に縛られている方がリスクが高い。危機管理として世界中を飛び回る、というような。何にも属さない生き方。これが二十一世紀的だと思ってます。少なくとも僕はしばらくの間、そうするつもりです」
「バブルが飛んで、実体が残る。それが"今"から5年ぐらいで起きることでしょう。本当の21世紀はその後に来るもの、いってみれば"ポスト実体"。これが本当の21世紀だと僕は考えています。仕事するのでも、もうオフィスとかいらないわけでしょう。今月がロンドン、来月はイビサ、といったようにオフィス自体も移動してスタッフは全員現地集合。実際、自分の会社の過去三か月ぐらいを見ると、一番下のアシスタントでも、三分の一は東京にいません。二十世紀的デザイン・オフィスと決別して、次のスタイルを誰よりも早く模索するのが、クリエイターと呼ばれる人たちの仕事だと思います。モノも人もさらに流動性を高めていく」
そして"ウルトラフラット"化の次の世界は"リキッド化"です。流れるように動いていく世界が現れるはずです。そこではコンピュータを持ってバッグひとつで世界を飛び回るのが当たり前になる。それはジェットセッターなんていう優雅ものではなく、サバイバルのための必然でしょう。僕は今現在それを実践しているわけです。なぜなら、僕は時代の最前線に突っ込むことが自分の仕事だと思っているからです。真っ暗闇の中をゲリラ部隊が突入するみたいに。だから今は誰よりも早く21世紀に突っ込もうとしているんです。いや、もう突っ込んでいる。そのうえで、僕が感じたり考えたことを次の世代に、僕より遥か年下の人たちの伝えていきたい」
「僕らの世代は、日本のバブル崩壊によって出てこれたのです。なにしろ、優雅だった上の人たちが一斉に飛んでしまいましたからね。だからこれから出てくる人は、世界バブル崩壊とともに頭角を現すでしょう。そして、この日本人という優秀な民族は、世界でもっと活躍しなければいけないと思ってます。そのためには新しい"考え方" "スタイル"を持っていなければいけない。二十世紀的ものづくりではありません」
「何度もいいますが、僕は経済学者でも哲学者でもなく、クリエイターです。クライアントのためにプレゼンを繰り返すオシャレな出入り業者ではなく、時代を切り開き、あたらしい世界を作ることに日々真剣です。二十世紀的思考では、僕の姿は滑稽に見えるかもしれません。しかし、僕は危険な未来に敢えて誰よりも早く切りこんで、時には傷だらけになりながらも、いち早く危険と可能性を察知し、それを誰よりも早く実践し、文字、映像、音楽などに変えて、次の世代に伝えていきたいと思っています。それは、これからも変わらない自分の揺るぎない未来との付き合い方だと思ってます」