08 10/15 UP
Photo:Shoichi Kajino
「現在は金融や経済、さらには追従する政治で社会が揺れてますよね。でもそれ以前に人間にとって大事なものがあるわけでしょう。まず、水と食料。いうまでもありません、お金より大事です。そして資源。どんなに最新の携帯電話を持ってても、電気がなく充電できなければ、どうしようもありません。その次に外交政策。この外交っていうのは国と国、というわけではなく異なる地域間での交流ということ。日本でいえば中央を無視した北海道と沖縄の対話や、国家を無視した東京とロンドンの交流などです。ネットでいうところの、まったく関係ないコミュニティ間の交流と言い換えてもいいかもしれません。ネット内でも、コミュニティ内は盛り上がっても、まったく関係ないコミュニティが交流する機会は、ほとんどありません。その壁の打破です。その次が娯楽。これがないと人間はやっぱり、辛いですからね。いま、問題になっている金融なんてその後に続くものでしょう。だから、大きな問題が発生するのは、これからだということを覚悟しておかねばなりません」
「僕が考える本当に大事なこの4つ『水・食料』『資源・エネルギー』『外交』『娯楽』、これらを個人で解決する。もしくは、解決しようとする。国や企業に頼るのではなく、この4つを自分で確保する。これが大事です。僕は世界がこうなること、つまり世界が"ウルトラフラット化"することは何年も前から感じていたので、すでに北海道と沖縄、それに海外にいくつかの拠点を作り分散し、なにがあってもいいように、どこにでもいけるように、持ち物をスーツケース数個だけにまとめました。実際、今年はロンドンに住んでいます。そして来年は、拠点を変えるつもりでいます。動けるうちに動かないと、と思っています。それは2001年9月11日にフランクフルトで足止めされ、その後何年も海外渡航が不自由になったのは、最近のことなのに、多くの人は忘れてしまってるからです。だから、いつでもどこでも移動できる時に移動する」
「そのようなライフスタイルにするために、不動産や車も含め、過去二十年間貯め込んだモノは、昨年までにほとんど処分したのです。そして沖縄では風力発電の施設が完成し、仮に電気、ガス、水道が止まっても、そこでは半永久的にやっていけるようにしています。100%電気だけで動く電気自動車もイタリアから輸入しました。さらに乳牛を飼い、複数の果樹園と提携しているので、食料もなんとかなる。というか、とても美味しい。それは飽食とは根本的に異なります。もうお気づきだと思いますが、同じ産直でも価値観が変わるのです」
「そして、娯楽はもともと僕の専門だからどこにいってもなんでも面白くチャチャっと作れます。いまも月に1、2枚DVDを個人的に作ってます。要は国や政府、あるいは大企業やメディアが扱う事柄を、小さなスケールでいいから個人でやっていくことが大事だと考えてます。そうすることで、近代社会のサイクルを、自分の目で確かめられるのです。大きなものの傘下に入ることに意味が無くなります。こうかくと、大企業をイメージしますが、この場合は国家をも含みます。ガスや電気といった当たり前の社会インフラだと思っていたものが止まっても、生きていけるように準備しておかないといけない。つまり、自分の人生を国や政府に預けてはいけない。その方がリスクが高い時代になると思う。そのようなことは、誰でもできるのです。水や食料を少し多めに買っておく。備蓄する。そんなことからも、はじめられるはずです」
「それだけじゃない。テレビもネットも信用してはいけない。自分の見たもの、会った人だけしか信頼してはいけない。たとえば、ある人物を評価するときに、その人がどれくらいの資産を持っている、どれくらい有名である、などを一切差し引き、実直な質問をするとよいでしょう。きっと自ずと答えがわかるでしょう。このような当たり前の話の積み重ねです。このようなことを過去二十年、日本人は忘れ、幻想であったか株価や視聴率のような数字や限定商品、セレブなどという呪いにかかってきました。今後5年かけて、世界は大きく動きます。その時に時代とともに動かなければ、浦島太郎のようになってしまうのです。いくらネットをみても、おなかは膨らまないですし、真実を感じないですからね」
「僕は"近代"というOSが崩壊したんだと思っています。しかもそれに替わる新しいOSがまだ無い状態。これまでもアプリケーション・レベルの不具合はたくさんあったわけです。ITバブル崩壊、アジア通貨危機とか。けれど、今回はレベルが違う。近代というシステムクラッシュなので、リブートしても治らないのです。もちろん、この状態は世界共通。日本はグロバリゼーションに乗り遅れた分、衝撃がやってくるのも遅れているけれど、どうしたってこの変革に巻き込まれる。"ウルトラフラット"の時代がもう始まろうとしているんです。この崩壊からリスタートまでの一瞬のタイミングを逃すと21世紀を生き残ることができない。少なくとも、上手く生き残る、ことはできないんじゃないかなと僕は考えています」
「この"ウルトラフラット"とは何か。ひとつの譬え話で言うと国境によってその内側にいる国民を守る、ことができなくなるということです。日本が生き残ってアメリカが傾いたとする。そうすると大量のアメリカ人が日本にやってきて、日本人から仕事を奪っていきますよ。そのアメリカ人とは実際はアメリカ国籍のメキシコ人だったりする。中国移民はないがしろにできても、アメリカ移民はきっと断れないでしょう。そういう人たちが家族連れでやってきてコンビニやファミレスの店員となって働くわけです。これはすでにイギリスで起こったことなんです。EUの発足を契機にロンドンには東欧・ロシアからの労働者が大量にやってきたてイギリス人から仕事を奪っていった。今、ロンドンには東欧・ロシアからの労働者が100万人住んでいると言われているんです。非実態経済に従事してたイギリス人は、もはや自国の実体経済に戻れない。そこには、既にポーランド人がいるからです。こうした状況が一層激しくなるのが"ウルトラフラット"。こんな状況で国や企業に頼ることなんてできないでしょう」
「これから始まる『明日、何が起きるか分からない時代』には、とにかくモノを持たないことが重要。ストックを持たない生き方ができるヤツが生き残ると考えます。二十世紀的には、ヒップホップのPVにあるように、豪華な改造車を何台も持って、ゴールドをジャラジャラさせることが、ある意味二十世紀的価値観の頂点でした。タンジブル・エコノミ−において、ゴールドはまだ価値があると思いますが、どちらにしろ二十世紀的です」
「いまは、一刻も早くすべてをフローにする。自分自身の流動性を高めることが大事なのです。明日、どこに行っても生きていけることが大事。カバン1つ持って生きていけるっていうことが大事になってくる。よく、子供の学校が、会社がどうの、と言う人がいますが、本気だとは思えません。戦争や天災が起こっても、同じことを話すとは思えないからです。そのうえで自分のなかで、あるいは極めて小さなコミュニティのなかでサーキュレーションを構築する。食料、資源、外交、娯楽。そうしたものを外部に依存しない生き方を自分なりにつくりあげないといけません」