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THINK PIECE

Against the Empire

スチャダラパーが放つ建設的な「文句」

09 3/26 UP

Text:honeyee.com Photo:Shoichi Kajino

ナンセンスな振る舞いの中にこっそりとメッセージ性を忍ばせる、という従来の手法とは異なる、
ストレートなメッセージで構築したニューアルバム『11』、
そして、10代、20代に影響を受けたカルチャーを語り尽くした単行本『ヤングトラウマ』、
さらに、写真家としての類稀なる才能を見せた? ANI初の写真集『ブリングザノイズ』のリリースと、
ハイペースで活動を行うスチャダラパー。
ナンセンスな「遊び」の中に隠されていたスチャダラパー的「毒」を見せ付けたアルバムの話を中心に、
今現在の「スチャダラパーなるもの」に迫るインタビューを敢行。

 

──
昨年末のリリースに続き、今回のニューアルバム『11』。ここのところリリースが続いていますね。
BOSE (以下: B )
「僕たちとしては最速のペースでしたね。それでも、スチャダラパーはのんびりしていますよね、とか言われちゃいますけれど(笑)。回りにいるスタッフも固定されてきて、そういう意味で今回のアルバムはストレスなく作れました。参加してもらったミュージシャンも、去年ハローワークスをやった中でできた関係だったりして、自然な流れの中で出来たアルバムです」
──
アルバム全体の雰囲気はいつになくシリアスなものに感じられたのですが。
B :
「年齢というのもあるし、世の中のムード的にふざけたことをして面白がれることが少ない、というのがあったので」
SHINCO (以下: S )
「グループ魂のアルバムに参加したりとか、デトロイトメタルシティのトリビュート盤に参加したりとか、去年はいい意味でバカなことをやり尽くしたから、その反動もあるのかもしれないですね」
──
ふざけながらも曲の中にシリアスなメッセージを忍ばせる、というのがこれまでのやり方でしたが。
B :
「今回は違いますね。言わなきゃ分からないならストレートに言ってやる、と。これまでのやり方は分かる人には分かる、けれど、そうじゃない人もいる。なので、ストレートの言いたいことを言いました。例えば、ギャグで具体的な企業名を出しちゃえ、とか(笑)。そうした方が引っかかる人も出てくるだろうし。ストレートに言うか言わないか、表現の差はあるけれど伝えたいことの根本は一緒なんですよ」
──
言わなくちゃ伝わらない、ということを強く意識されていますよね。
B :
「例えば木村カエラちゃんとやった曲“Hey! Hey! Alright”を聴いて、前向きな曲ですね!! と言う人がいるんだけれど、あの曲は『前向きな曲』という体裁を取っているものの、そこには僕たちなりの問題提起が含まれていて……。その問題提起が面白い部分なのにちゃんと伝わっていない、ということが結構あったので」

 

 

──
トラックもいわゆる「遊び」の部分が削ぎ落とされたストイックなヒップホップトラックに聴こえました。
B :
「声ネタのスクラッチとか、面白い声で歌う、みたいな飛び道具的な分かりやすい『遊び』は入れてないですね。ただ、今の好みとして入れていないだけなんですけれど」
ANI (以下: A )
「あと、声ネタをサンプリングするにも金と手間が掛かる、ということも。金がないからサンプリングでトラックを作っていたのに、今や声ネタでもライセンス申請して金払わないといけないので……」
B :
「色んな事情がありますよ。うっすらとね(笑)」

──
金を掛けずにイージーに曲を作れたはずのサンプリングも、当初の在り方とは変わってしまった。サンプリングに象徴されるように、当初の在り方とかけ離れてしまったことで生じる矛盾、みたいなものがあって、アルバムではその矛盾を突いていますよね。
B :
「本当の本当は何だ? みたいなことなんですよ。それは、僕たちが何で音楽をやっているか? という部分にもつながってくるので。少し話はずれますけれど、タイアップってあるじゃないですか。昔は企業とミュージシャンの間に、一緒に良い曲を作りましょう、という一応の大義名分があったけれど、今は、お金になるタイアップ取れましたんで!! みたいな話があからさまに聞こえるようになってきて。けれど、僕たちとしてはただそこにハマることだけは嫌だな、と。僕たちも大人だし、会社の人が頑張ってタイアップを取ってきてくれるわけだから、その気持ちは受ける。けれど、そこには僕たちなりのトラップや毒をこっそり入れたり(笑)。前は、つまらないからやらないよ、と言って蹴飛ばしていたけれど。大人になりましたね(笑)」
──
こだわりが強すぎて表現の舞台から降りてしまう人もたくさんいますが、そうはならずに作品を作り続けることの秘訣はありますか。
S :
「無駄なことをしている、と思いながらもやるしかないんです(笑)」