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THINK PIECE

History of Lewis Leathers Part1

英国カルチャー史における最重要ブランド「ルイスレザーズ」。
5代目オーナー、デリック・ハリスが語る伝統と革新。

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Text:Andrew Bunney Photo:Tommy  Translation:Mayumi Horiguchi

我が社はこの市場に向けて、2~3カ所の重要なディテールを変更したアメリカン・ネーム付きのブロンクス ジャケットを生産。アメリカ製のジャケットのいくつかは、背中部分にアクション・プリーツがあるのだが、ブロンクスほど大きくはなかった。しかしキッズは、クリップオン・ハンドルバー搭載のバイクに乗るTTライダーみたいに、自分を見せることを望んでいたので、ほぼタンクの上ぐらいのとても低い位置に構える必要があったんだ。アメリカ製のジャケットを着ていると、拘束的でそれが出来なかったから、ブロンクスは違う方法で仕立てることにした。アメリカン・ルックが求められていたということで、ベルトは付いていたけれど、ガソリン・タンクを引っかいてしまう恐れがあったので、ベルトのバックルはメタルでカバーされている。この点が、アメリカ製のジャケットとは明白に異なるスタイリスティック・ポイントと言える。

その後、このブロンクスはややアメリカン・ルックを保ったジャケットであるサンダーボルトへと続く。60年代初頭にはザ・ビートルズの台頭と共にブリットポップなどがスタートすると、イギリス人のキッズたちは、アメリカについてあまり煩わされることがなくなり、リバプール、ロンドン、あるいはマンチェスターから発生したものを誇るようになった。そしてジャケットからは、アメリカナイズされたラベルはすべて剥がされ、アメリカを彷彿させる言葉以外の名前を持つようになったと言うわけ。

脇に合計4個のジップポケットが配されたライトニング ジャケット――これもまた、ガソリン・タンクから遠ざけるためにだね。そのアイディアを思いついたのが誰だったのかは分からないが、アメリカ製のジャケットにはそういったスタイルのものはない。バックル自体は20年代のカタログで見たことがあるけどね。バイクや車を守るものとして長い間使用され続けたんだが、誰かがバックルを外しそれをモーターサイクル・ジャケットの上に取り付けたのだろう。それはものすごいことだったと思うよ、それが今でも極端に特色のあるブリティッシュ・スタイルのジャケットであり続けているんだから。
A :
それ以外の後期のスタイルはどうですか。かなりヨーロピアンなルックですが。 
D :
スポーツマンやモンザといった型は、とてもヨーロピアンなタイプだと常に思っていたけれども、リサーチが進めば進むほど、30年代や40年代のジャケットにも全く同様のことが言えると分かってきた。そういった時代のジャケットも持っているんだけどね。ストリームラインではないけれど、ショルダーとエルボーにパッドが付いていて、襟はマンダリン・カラー(*注)、ランサーフロント(ダブルブレステッド)だけれども、ジッパーで開け締めするのではなくボタン掛け。ジップはその時代には、高額すぎたからね。

ブロンクスと同じ設計のジャケットが掲載されている20年代のカタログもあるぐらいだ。D.ルイスはこの商売を長期間続けていたので、 型紙とブロックをいつもリサイクルして使っていた。そうすれば、ちょっと電話をかけて、「こっちに変えてくれ」とか「このポケットはここと同じにして」って言えば済むからね。つまり、ブロンクスのルーツは20年代後半まで遡れるんだよ。

*註7:「アクション・プリーツ」:動作を楽にするために袖の後ろの部分や背中の中央にとられた機能的なプリーツのこと。
*註8:「マンダリン・カラー」:別名チャイニーズ・カラー。マオ・カラー(Mao collar)と同義とされる。


 

A :
あなたが一番気に入っているルイスレザーズのアイテムは何ですか。
D :
1930年代のカタログかな。ブルームスバリーのブックフェアで見つけたんだけど、世界中でこれ一冊しか見たことがない。名刺を携えて歩き回っていたら、レディが「特別なものを持っているわよ」と声をかけてきたんだ。二週間後、彼女は電話をかけてきて5ポンドくらい払って、カタログを手に入れることが出来た。あやうくソファから落ちるところだったよ(笑)。そのカタログには初期の飛行用の服、ゴーグル、そういった類のものが掲載されているんだ。

2番目は、飛行機の空中文字で書かれた“D.ルイス Ltd”のラベルがついている、1920年代のフライトスーツ。それから初期のブロンクス。どちらもスペシャルなものなんだ。なぜなら、それは古い時代の終わりと新しい世界の始まりを示すものだから。50年代中期のティーエイジャーたちが掲載されている広告もすごく重要。結局はパンク・ロックへと繋がるものだからね。僕は大英帝国の様々なユース・カルチャーにすごく興味を持っていて、ロッカーズに関連したものは、パンクへ連なる道の最初のステップだということが分かるし、ブロンクス ジャケットはまさにその時代の重要なアイコンと言える。
A :
パーソナル・コレクションに加えたいものはありますか。
D :
もっと、古い飛行用のギアをそろえたい。モーターサイクリング・ジャケットは、ほぼ大半を手に入れたからね。
A :
シド・ヴィシャスのジャケットは。
D :
そうだな、それは素晴らしいだろうな。たぶん、1,500ポンドは要求してくるだろう。そんなお金はないんだけど、もし入手することができたら、愛らしいアイコン的ジャケットとして所有するよ。まあ、そんなことは絶対起こらないと思うけどね。18年位かかったけどロッカーズのものはもう蒐集し終わったと感じているから、今は飛行用のアイテムを探しているんだ。特に1955年以前のものを探しているけど、ジッパーとかカジュアルなアイテムなど、第二次世界大戦時代のものは魅惑的。そういったものは、全部が未知の領域だから楽しいよ。